著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-25, 2015-03-10

本稿では,9世紀から10世紀にかけてのスコットランドがピクト王国からアルバ王国への発展・移行したこと,ならびに,その同時期におけるその周辺国の事情を概観する。特に,ピクト王国が後世になって“Viking”と呼ばれている人々(民族)の侵攻に対峙し,その戦いの結果,スコットランドの統一王国であるアルバ王国が形成された。また,ヴァイキングとの戦いから,スコットランドと同時に,イングランドにおいては,ウェセックス王国がイングランド全体を治めるようになり,イングランド統一王国が形成された。さらに,周辺国の事情では,特に,ヴァイキングとアイルランド王(上王:high king)との敵対,あるいは,両者の共闘を通じて,ヴァイキングの果たした歴史的役割の一端を考察する。本稿は,3節から構成され,第1節では,ピクト王国からアルバ王国への移行期となる9世紀中旬から9世紀末までの時代を概観する。その時代は,スコットランド王のケニス1世からドナルド2世までの治世に対応する。第2節では,スコットランド王のコンスタンティン22世の治世とその周辺国の事情を概観する。同時に,特に,アイルランド王国の上王とヴァイキングの対立あるいは共闘についても概観する。第3節では,資料を通して,ピクト王国からアルバ王国に移行する時代は,コンスタンティン2世の治世に対応していることを概観し,併せて,それを検証する。
著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-121, 2020-02-29

本稿では,正義を実現する国家とはどのような国家像であるのかを考察する。その際,プラトンが対話編『国家』で展開する正義論ならびに国制(政治体制)を手がかりにしてその国家像について検討する。 本稿の第2章では,第1章のプラトンの哲学あるいは哲学者についての現実認識を踏えて,国制の混乱・崩壊の原因が支配者層を構成する人々の間の支配権を巡る抗争にあるというプラトンの想定を基盤とし,支配者間の団結・連帯を実現するための要件を前提にし,プラトンが最も強く押し出している理知的な支配者とその支配者を社会において育成するための教育プログラムについて考察する。プラトンの成長段階に応じた教育プログラムの特徴は,次の6段階の成長段階(1)幼児から10歳頃(教養教育ならびに体育教育(健康管理教育))(2)10歳頃から20歳頃(学術教育)(3)20歳頃から30歳頃(研修教育(予選された者の教育))(4)30歳から35歳頃(哲学的問答法の教育(言論修練教育))(5)35歳頃から50歳頃(体験教育)(6)50歳以後(支配者として活躍あるいは哲学に専念)に分けて,支配者(守護者)を踏まえた教育プログラムで,育成される支配者は,理知的で,かつ守護者(軍人)としての体験教育を受けた支配者である。政務を審議し計画する支配者(政治家)の職位につく年齢の50歳超まで,支配者としての教育を受けた人間である。これがプラトンの理想とした国制,すなわち哲人王制のもとでの支配者・統治者である。このプラトンの支配者養成の教育プログラムを検討する。 本稿の第3章では,正義について,様々な観点から考察する。ギリシャ人の正義,正義の社会的有用性,正義と知者,正義と支配者,正義と利益,正義と分を守る,正義と国家,正義と善,正義と幸福などについて考察し,その中でも,正義と国制(最優秀支配制,寡頭制,民主制,ならびに僭主独裁制)の関係を検討し,特に,ソフィストと知られるトラシュマコスの正義論(強者の利益が正しい)を巡って,正義が支配者(現実の国制)にとって何であったのかについてに認識を深める。 本稿の第4章では,プラトンが正義とは何かを明らかにするために,新たに建設された国家を取り上げ,その国家は,金儲けする階層(農民や,鍛冶職人,織物職人など),支配者層(政策を計画し審議する人々),そして支配者を補助する階層(軍人)から構成されるが,それぞれの階層が自身の職務に専念し,他の階層の職務(仕事)を侵さないことが正義であり,そして,プラトンが新たに建設する国家では,知恵,勇気,節制,そして正義が実現し,さらにその国家で生活する各個人おいても4つの徳が実現することを説明する。論文
著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.6, pp.59-82, 2013-10

本稿で取りあげる北部アイルランドとスコットランド北西部で活動したダル・リアダ王国は,6世紀の初めに建国し,アイダーン王(Áedán mac Gabráin)(在位574年?-608年)の支配下のときに,その周辺国との戦いによる勝利によって,その領土を発展・拡充し,その最盛期に至した。しかし,603年頃のDegsastanの戦いにおいて,その王はノーサンブリア王国のエゼルフリス王(AEthelfrith)(在位593年-616年)に敗れ,その後,彼の勢力は衰え,同時にダル・リアダ王国の力も衰えた。さらに,彼の後継者は,周辺国との戦いに敗北するのみならず,内部抗争(ケネル・ガブラーン家とケネル・コンガル家の王家の抗争)を繰り返し,その勢力は一層衰退した。また,637年のMag Rath(ダウン州のMoira)の戦いの後,北アイルランドのダル・リアダ王国は滅ぼされ,同時に,スコットランドのダル・リアダ王国はその政情も不安定化し,ノーザンブリア王国に従属し,さらに,685年にノーザンブリア王国がピクト王国の王ブリィディ(ブルード)3世(在位671年-693年)に敗北し,730年頃にはその王国は,オエンガス1世のピクト王国の支配下に入り(従属し),その王国の上王(大君子権)がピクト王に支配に入った。最後に,ピクトとダル・リアダの融和に果たしたキリスト教の役割を調べる。第1節では,伝説のダル・リアダ王国と実在のダル・リアダ王国について,伝説のファーガス・モーによるダル・リアダ王国の建国とケネル・ガブラーンとケネル・コンガルそして,アイダーン王の全盛期その後のその勢力の陰りとその衰退,第2節では,ダル・リアダ王国の内部抗争とノーザンブリアおよびピクト王国への従属を概観し,第3節ではダル・リアダ王国とキリスト教の関係を説明する。
著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.15, pp.73-103, 2019-11-30

本稿では,プラトン(Πλάτων, Plátōn)(前427 年-前347 年)の『饗宴』を通して,個別のものの観察から始め,ことの本質(ものの本性)を見極める認識論について考察する。すなわち,彼は,個別・具体的な美しいものから美そのもの(すなわち,美の本性,あるいは美の本質)を認識する手順について考察している。この手順は,プラトンの『饗宴』において示された,愛することから認識することに到る手順として与えられる。本稿では,個別・具体的な美しい肉体から美そのものの認識に到るための手順が考察される。それは,個別・具体的な肉体的美しさを求める者(愛する者)は,(1)はじめに,この世(地上)の個々の美しいものに心を引かれる(愛する),つまり ある人の顔や手とかその他肉体(身体)に属するものの美しさにひかれ,(2)次に,最高美を目指し,梯子の階段を昇るように,絶えず高く昇っていく,すなわ ち, 一つ一つの美しい肉体的な美しさから二つへ,二つからあらゆる美しき肉体(身 体)へと進み,そして,あらゆる肉体(身体)の美が同一不二であると看取し,一人 に対する熱烈な情熱が取るに足らぬものと見て,その熱を冷まし,その愛をあらゆる 肉体(身体)に及ぼし,(3)そして,美しき肉体(身体)から美しき心霊に進み,肉体的美しさより心霊上の美 しさに高い価値を置き,(4)その上で,美しき職業活動へと進み,たとえば,最高で最美な国家と家の統制に関 することへと進み,(5)美しさ(エロス)を語るには,美しさの真実を究める必要があるので,美しき職業 活動から美しき学問に進み,その学問から美そのものの学問に到達し,(6)最終的には,美のそのもの(美の本質)を認識する。 ここに到って美そのものを觀得する(認識する)ことになる。プラトンは,肉体的な愛欲者から愛智者に到って,ものの本性・本質を見極めることができると言う。また,そこにおいて人生は生き甲斐があると言う。プラトンの『饗宴』において,肉体的な愛欲者が,愛智者となり,美そのものを(ものの本性)認識することに到ることを,本稿では考察する。論文
著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.16, pp.123-161, 2020-02-29

本稿では,プラトンの対話編『パイドロス』においてソクラテス(すなわちプラトン)によって繰りひろげられたエロス論の特質について考察する。すなわち,パイドロスが朗読した弁論家リュシアスのエロス論と対比してソクラテス(すなわちプラトン)のエロス論を検討し,両者の違いも考察する。その対比を通して,ソクラテス(プラトン)のエロス論の特質を鮮明にされる。対話においてソクラテスは二つのエロス論を提示しているが,それぞれは,まったく異なった二つの立場からのエロス論である。その一つは,リュシアスと同様に恋する人ではなく,恋してはいない人を愛するエロス論であり,他は,恋している人の方を愛するエロス論であった。 本稿では,現世の美しい人を目にし,そこから美の真実在から現実(この世)の美を認識する認識論としてのイディア説が示される。その認識論は,プラトンの対話編『饗宴』で検討した認識論の拡張,深化あるいはその延長線上にあるものであるが,プラトンは,神(あるいはデーモン)の存在を強調し,真実在の認識には神あるいはデーモンの働きを欠くことができないと主張している。プラトンのように,ある実体を認識するには,神の存在を持ち出す必要があるのかどうかは,疑問であると考えられている。そのため,今日の科学の時代において,これがプラトンの認識論を積極的に評価されない一面である。 本稿では,また,弁論術についても紹介される。その真実在を伝え教える方法として,プラトン自身によって開発されたディアレクティケー(哲学的問答法)を説明する。その方法と,プラトンが活躍していた当時の弁論術(言論の技術)あるいはソフィストの詭弁術との違いを示す。ソフィストは,事柄の真実在ではなく,世間の人達に受け入れられること,あるいは受け入れられるであろうと思われることが真実であると考え,その事柄を理路整然と語るひとが知恵者であると言うが,プラトンはその立場には与せず,彼の言論の術を展開する。その言論の術は,彼のイディア説に裏打ちされた言論の術(弁論術)である。論文
著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.5, pp.41-62, 2013-03

本稿では,16世紀中期のスコットランドの宗教改革前夜の国際情勢の中で,スコットランド王国がイングランド王国とフランス王国に翻弄されながらも,自国のアイデンティティを模索し,スコットランドの自律あるいは自立に政治生命を賭けた国王メアリー女王の時代を調べる。イングランド王国によるスコットランド王国の征服・併合の策謀は,エドワード1世(在位1272年-1307年)やエドワード3世(在位1327年-1377年)に見られるたが,しかし,第1次独立戦争(1306年から1328年まで)や第2次独立戦争(1329年から1377年ごろまで)におけるスコットランドの勝利によって回避された。テューダ朝ヘンリー7世の治世下での経済力の伸展をベースにして,ヘンリー8世のフランス侵攻戦略によってイングランド王国による一体化攻勢が再開された。本稿の最初の節ではメアリー女王がフランスへの脱出し,フランス王妃になり,そして帰国したメアリー女王と王母マリー・ドゥ・ロレーヌの宗教政策と会衆指導層の戦いを概観する。次節では,メアリー女王の再婚と私設秘書ダヴィッド・リッチオならびにダーンリー卿ヘンリー・ステュワートの暗殺と,メアリー女王のイングランドでの陰謀の失敗とメアリーの死を概観する。それと同時に,1560年2月27日にイングランドとの間で結んだベリク協定(Treaty of Berwick)とエディンバラ条約(Treaty of Edinburgh)によって,スコットランドとイングランドの絆が強くなり,フランスとの古い同盟は反古にされ,両国の合同が間近にせまっていた。
著者
浅川 雅己
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University review of economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2015-10

ジェーン・ハンフリーズの一連の研究の意義は,家族をユートピアとみる点にあるのではない。その意義は,労働者階級の自己再生産は,資本と賃労働の対抗関係,資本主義的生産関係の在り方に依存していることを示した点にある。ただし,このように理解することは,再生産をめぐる諸困難との対決を先送りすることを正当化するものではない。ハンフリーズの研究は,「労働供給のコントロール」が労働者階級の再生産の在り方を大きく左右するものであることを明らかにした。そこから,労働者階級の再生産戦略の今後についていくつかの示唆を引き出すことができる。論文Article