- 著者
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山田 秀頌
- 出版者
- お茶の水女子大学ジェンダー研究所
- 雑誌
- ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
- 巻号頁・発行日
- no.23, pp.47-66, 2020-07-31
GID(性同一性障害)の医療的・法的な制度化に反対する論客らは、GID とは対抗\n的と目されるTG の概念に立脚して、GID 体制に対する批判を展開してきた。本論文\nは、こうした批判的な言論をトランスジェンダー論と呼び、そこにおいて制定されて\nいるGID とTG の対立構造を、アイデンティティとしてのGID の位置づけに着目して\n検証する。本論文はまず、この対立構造を構成する障害-個性、身体-社会、日本-\n世界、他者-自己という四つの二項対立を同定する。次に、ジュディス・バトラーの\n呼びかけの議論を援用しながら、GID が障害であることを否認しながら肯定するとい\nう二重の身振りによって特徴づけられるGID へのアンビヴァレントな同一化をエイ\nジェンシーの行使として位置づける。そして、GID-TG の対立構造を通じて、TG は\nGID が表象する他者性を排除することによって普遍的なカテゴリーとして構築される\nために、このアンビヴァレンスは抹消されてしまうと論じる。