著者
藤高 和輝
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.24, pp.171-187, 2021-07-31

本論文は、千田有紀の論考「 女の境界線を引きなおす」 を批判的に読み解くことを通して、現代の日本社会におけるトランス排除的言説の構造を明らかにすることを試みるものである。千田の論考は 2020年3月に出版された『現代思想』臨時増刊号「フェミニズムの現在」に掲載されるや否や、トランス当事者を含めた多くの人たちからトランス排除的な論考であると批判され、物議を醸したものである。本稿では、千田の論考を読解することを通して、その背後にあるトランスフォビックな認識論的枠組みを明らかにする。その枠組みとは「ポストフェミニズムとしてのトランス」という図式である。そして、その図式が千田個人だけではなく「トランス排除的ラディカル・フェミニズム」に広く共有されている可能性を提起する。以上を通して、現在のフェミニズムが抱える問題点を浮き彫りにし、インターセクショナルな視点をもったトランス・インクルーシブなフェミニズムの必要性を主張する。
著者
張 瑋容
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.24, pp.113-130, 2021-07-31

従来のBL(ボーイズラブ)研究において、男同士の親密関係をめぐる腐女子の欲望や、ジェンダー規範の解放などが議論されてきた。BLの実写映画やドラマの増加により、腐女子の界隈を超えてより多くの人々に触れられるようになりつつある今日、BLが異性愛中心主義のジェンダー構造にもたらす攪乱をより包括的に分析する論点が必要になる。本稿はラカン批評を中心とするフェミニズムの議論を基に、「男」「同士」の「関係性」をめぐるファンタジーを構造化する理論構築を目的とする。まずは、象徴界、想像界、現実界といったラカンの概念を用いて、BLファンタジーの構造化を試みた。次に、BL ファンタジーを表す「攻め×受け」の造形に着目し、BL と異性愛中心主義とのパロディー的な対峙関係を論じた。最後に、本稿の議論を「BL ファンタジーの存在論」で締め括り、そこから異性愛中心主義の強固さと滑稽さを追究する姿勢を示すことで、BL研究を新たな次元に導くルートの開拓を試みた。
著者
山田 秀頌
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.23, pp.47-66, 2020-07-31

GID(性同一性障害)の医療的・法的な制度化に反対する論客らは、GID とは対抗\n的と目されるTG の概念に立脚して、GID 体制に対する批判を展開してきた。本論文\nは、こうした批判的な言論をトランスジェンダー論と呼び、そこにおいて制定されて\nいるGID とTG の対立構造を、アイデンティティとしてのGID の位置づけに着目して\n検証する。本論文はまず、この対立構造を構成する障害-個性、身体-社会、日本-\n世界、他者-自己という四つの二項対立を同定する。次に、ジュディス・バトラーの\n呼びかけの議論を援用しながら、GID が障害であることを否認しながら肯定するとい\nう二重の身振りによって特徴づけられるGID へのアンビヴァレントな同一化をエイ\nジェンシーの行使として位置づける。そして、GID-TG の対立構造を通じて、TG は\nGID が表象する他者性を排除することによって普遍的なカテゴリーとして構築される\nために、このアンビヴァレンスは抹消されてしまうと論じる。
著者
上野 千鶴子
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
vol.20, pp.21-33, 2017-03-31

Neoliberalist reform is a capitalist response to globalization throughoutadvanced societies. It takes a particular form in Japan to maintain breadwinnermodel at a cost of women. Gender equal legislation went hand in hand togetherwith deregulation of employment, which resulted in the increase of women'sirregular employment with low wage and no job security. In the retrospective,the Equal Employment Opportunity Law launched women's bipolarlizationwhich ended up with feminization of poverty. While women's mobilizationto the labor market is imperative in the society with extreme low fertility,neoliberalist reform asks women both work and family, without changing malecenteredwork style. The Japanese style employment is proven as genderdiscriminating.As far as it is maintained, any legal legislations to promotewomen's work are determined to fail. Neoliberalist reform in its Japanese style ends up with low fertility, wherewomen hardly have future visions.
著者
倉光 ミナ子
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.24, pp.67-74, 2021-07-31

COVID-19 のパンデミック下において、感染拡大を防ぐために、人びとが突然「ステイホーム」を求められたことにより、期せずして「ホーム」という空間/場所に関心が集まった。本稿はパンデミック下における「ホーム」をめぐる現象を概観することで、「ホーム」という空間/場所について再考することを目的とした。日本では春以降の緊急事態宣言下において、テレワークの導入、日本政府の緊急対応策、「ステイホーム」の呼びかけを通じ、「ホーム」が暗黙のうちに異性愛規範に基づいた安全な場所として強くイメージされていることが明らかになった。同時に、「ステイホーム」は「ホーム」が誰にとっても等しく安全な場所でないことも暴き出した。このように、パンデミック下での「ホーム」をめぐる現象はすでにフェミニスト地理学が論じてきた点を深刻化する形で「ホーム」に伴う課題を突きつけるとともに、「ホーム」そのものの意義や意味について再考を促している。
著者
豊福 実紀
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻号頁・発行日
no.23, pp.143-164, 2020-07-31

日本における女性の就労に対する税・社会保障の" 壁" は1980 年代に顕在化し、2010年代に変更が加えられたものの、なお存続している。" 壁" が存続してきた要因の1 つとして政権党である自民党の保守性が考えられるが、女性の就労に関する自民党の姿勢については解明されていない部分が多い。そこで本稿は、女性の就労に関して自民党が、世論や左派的な政党と比較してどのように保守的だったのかを問うべく、世論の変化を見たうえで、1980年代と2010年代の税・社会保障制度改正における国会発言の分析を行う。分析の結果、1980年代には自民党の姿勢と世論とのギャップは大きくなかったが、2010年代に世論と中道・左派政党が女性の就労継続を肯定するようになったとき、自民党は男性稼ぎ主モデルから外れて働く女性に関心を払わない姿勢をとったことが示され、自民党の右傾化の議論との関連性が示唆される。
著者
レティツィア グアリーニ
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 = Journal of gender studies, Ochanomizu University (ISSN:13450638)
巻号頁・発行日
no.22, pp.111-129, 2019

女同士の絆は、はかない関係と見なされることが多い。とりわけホモソーシャルな絆(非性的かつ、友愛のコードが適用される同性間の親密性)=男同士の関係という印象が強いため、女同士の絆が不可視のもの、不可能なものとされてきた。その結果、男性間の友情物語と比べて女性間の友情物語が圧倒的に少ない。日本現代文学において女同士の絆の可能性を探った作家として角田光代が挙げられる。角田の作品において母娘関係をはじめ、女同士の関係に焦点を当てたものが多い。『対岸の彼女』(2004)では、現在における小夜子と葵との関係と、葵の高校時代における友人魚ナナコ子との関係、二つの物語を通じて作者が女同士の友情の可能性を模索している。本稿では、(1) 少女同士、(2) ママ友同士、(3) 負け犬対勝ち犬、それぞれの関係を中心に男性ホモソーシャル体制によって支持されている制度による女性の絆の制限の表象を探求し、その絆の可能性について論考を試みる。投稿論文
著者
斉藤 巧弥
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 = Journal of gender studies, Ochanomizu University (ISSN:13450638)
巻号頁・発行日
no.22, pp.131-149, 2019

本稿は、1990年代の日本におけるLGBT の社会運動においてゲイとレズビアンが共に活動をする中、どのような差異が両者の間で問題となっていたのかを論じる。分析対象として、北海道札幌市で1989 年から2000 年代初期にかけて活動をしていた団体" 札幌ミーティング" を取り上げる。札幌ミーティングではゲイとレズビアンが共に活動をしていたが、両者の間には差異もあった。ひとつは、新しいコミュニティとしての札幌ミーティングを、コミュニケーションの場として利用することに対する認識の違いであった。もうひとつは、抗議活動と自己の内面に向き合う活動のバランスをめぐる認識の違いであった。これらの差異は両者の対立にもつながり、その背景には、両者の間にあるジェンダーの違いが必ずしもゲイ男性に認識されていたわけではないこと、両者が各自のアイデンティティを重視していたため、このような差異を積極的に共有・議論するに至らなかったという事情があった。投稿論文
著者
伊田 久美子
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 = Journal of gender studies, Ochanomizu University : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報 (ISSN:13450638)
巻号頁・発行日
no.20, pp.35-43, 2017-03

Austerity as a neoliberal public policy is argued to have a negative impact\on the level of social reproduction owing to its reduction of social welfare costs\and social services, and many feminists point out that women's conditions of\living are getting worse because reproductive work, both paid and unpaid, has\been borne primarily by women.\ On the other hand, a series of trans-national supranational of United\Nations on women's issues and women's movements of non-governmental\organizations have been promoted since the '70s, and the issues of violence\against women and women's rights have been especially focused upon since\the '90s. It is argued that this trend would not have been realized without\neoliberal globalization because it has an inevitable tendency to weaken\the national sovereignty. This paper proposes to estimate growth and\empowerment of women's agency since the '70s, in the neoliberal trend in\Japan, which has a poor level of welfare state coupled with a strong gender\bias. An improvement of women's conditions could not have been achieved\without the mentioned supranational pressures.
著者
佐々木 満実
出版者
お茶の水女子大学ジェンダー研究所
雑誌
ジェンダー研究 = Journal of gender studies, Ochanomizu University : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報 (ISSN:13450638)
巻号頁・発行日
no.20, pp.87-100, 2017-03

"Marriage" has been defined as a socially recognized spouses'union or legal\relationship between spouses. However, in the Qin Dynasty and the early Han\Dynasty of China, the word " 夫妻(spouses)" had ambiguous meanings even in\legal documents, and even couples in relationships that were not yet authorized\by their society were called " 夫妻(spouses)". It is assumed that the word had\three meanings: one was a relationship built on a private promise, another was a\relationship built by social recognition, and the third was a relationship built by\state authorization.\ Up to now, whether "marriages" in ancient China needed permission\from the government or not has been discussed. However, in consulting\some excavated material, this study proposes that "marriage" did not require\permission from the government. Nevertheless, the government guaranteed the\right of people's marital relationship, and regulated it. The structure of "family"\of that period was different from our modern "family", so we should consider\afresh how to interpret the word " 婚姻(marriage)" and " 夫妻(spouses)" in\regards to the regionality and the era.