- 著者
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小田 力
- 出版者
- 長崎大学風土病研究所
- 雑誌
- 長崎大学風土病紀要 (ISSN:00413267)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.3, pp.136-144, 1966-10
長崎県大瀬戸町松島の外平部落(115戸)で1961年9月(実験1)に,長崎市郊外の六枚板部落(27戸)で同年10月(実験2)に,及び外平部落で1963年7月(実験3)に,計3回の記号放遂法によるイエバエの分散実験を行なった.放遂バエは25℃の実験室で飼育,羽化後4~6日目のもので,放遂前24時間, P^<32>を含む餌を与えて記号を附し,更に実験3では3ケ所から略同時に放遂したハエを区別できるように,3種類の色素の2%水溶液を噴霧した.放遂後6日間毎日(実験2では放遂後1, 2, 3, 5, 8日に),屋内に設置したハエトリガミとハエトリリボンに附著した記号バエ数及び無記号バエ数を記録した.これらの実験結果から次のことがわかった.1.記号バエの回収数は,放遂後の日数の経過に伴なって減少する.2.記号バエは一般に放遂場所に近い人家で多く回収されるが,放遂場所からの距離が同じ場合には,無記号バエの採集数から判断して,屋内への侵入が容易でありハエの餌が散在している,人家で,回収バエが多く得られる.3.記号バエの分散距離は,放遂地点が人家に囲まれている場合には短かく,放遂地点の一方にのみ人家がある場合や,特に放逐地点が人家から離れている場合には長い.4.イエバエの分散には,ランダムな行動に基づく比較的小規模の分散と,分散飛翔とも呼ぶべきものによる,より規模の大きい分散とがあると推測され,後者は,放遂地点が人家と畠地や荒地との境にある場合や,人家から離れている場合に見られるようである.