- 著者
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黒岩 裕市
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- no.100, pp.221-246, 2021-09-30
二〇〇〇年代前半のフェミニズムへのバックラッシュの中で、ジェンダーフリー教育が「性別」をなくす企てであると攻撃の対象になった。一方、バックラッシュへの対抗言説でも、「性別」をなくすということ自体は否定的にとらえられ、結果的に性別二元論が温存されることになった。この点を批判的に問う先行研究を参照しつつ、本稿では「性別」をなくすというテーマが見られる村田沙耶香の『無性教室』(二〇一四年)を、バックラッシュをめぐる議論と関連づけつつ考察する。この作品の「私」が通う高校では「性別は禁止されている」。その「性別のない教室」がいかなるものかを検討しつつ、「性別」がなくなるということに対する「私」の不安をたどる。しかし作品終盤では「私」は「無性別の世界」をむしろ肯定する方向に向かっていく。このような展開に注目することで、性別二元論を再生産することなく、バックラッシュに抵抗する道筋を想像させるきっかけになり得るものとしてこの作品を読む。