著者
間野 博行
出版者
The Japan Lung Cancer Society
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.889-893, 2010

我々は肺腺癌の4~5%において2番染色体短腕内に微小な逆位が生じた結果,新たな癌遺伝子<i>EML4-ALK</i> が生じることを発見した.この逆位により,受容体型チロシンキナーゼALKの細胞内領域が微小管会合タンパクEML4と融合したタンパクが産生されるが,EML4内の二量体化領域によりEML4-ALKは恒常的に二量体化・活性化され肺癌の直接的原因となるのである.<i>EML4-ALK</i> を肺胞上皮特異的に発現するトランスジェニックマウスは生後速やかに両肺に数百個もの肺腺癌を多発発症するが,同マウスにALK酵素活性阻害剤を投与すると肺癌は速やかに消失した.したがって<i>EML4-ALK</i> は同遺伝子陽性肺癌の本質的な発癌原因であり,だからこそその機能を阻害する薬剤は肺癌の全く新しい分子標的療法となることが期待されるのである.既に実際の<i>EML4-ALK</i> 陽性肺癌症例に対するALK酵素活性阻害剤による第I/II相臨床試験も終了し,その目覚ましい治療効果が確認され,現在日本を含む国際第III相臨床試験へと移行している.我々の発見により,今後世界中で何万人・何十万人の肺癌患者の生命予後が大きく変わろうとしている.<br>

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