著者
小西 正隆
出版者
社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1043-1052, 1991
被引用文献数
2

以上概説したようにジイネン抗生物質は今までに想像されなかったジラジカル発生活性本体と共に, その活性化引き金部や, 逆にその歯止め役を担う部, さらにDNAの特定塩基対を認識して化合物を配位させる部を持ついわゆる自然の妙ともいうべき化合物である。<BR>この研究において特に重要な点はこれら化合物の発見が契機となって新しいラジカル発生構造やDNA配位構造, それらの機能の研究が著しく進歩したことである。例示のようにジイネン母核の合成は全合成的にも単純なモデル合成も短期間に多彩な展開を示し, 細胞毒性を持つ化合物が既に多種報告されている。しかしこれらの活性は未だ天然物に比較し数万分の1程度であり, この差が何に由来するかは今後の研究課題である。天然物のDNA配位部, 活性化の引き金部を導入することはその解明の一つと思われ, 実際にEPM, CLMのオリゴ糖部を結合したジイネン化合物の合成も報告されている。活性化の引き金についてはチオール, トリスルフィド, エポキサイド等を持つモデルも既に数種合成され, これらが天然物で予想された働きを示すことも証明されている。従ってこれらをいかに巧みに組み合わせるかが今後の方向であろう。<BR>この際立って強いジイネン化合物の細胞毒性は, 一方で正常細胞への副作用が問題となっている。このためモノクローナル抗体との複合体の研究が進められ, 既にCLMでは親化合物より優れた複合体も報告されている。市販ネオカルチノスタチンもスチレンマレイン酸アミド複合体の開発が進められている。しかし合成化学的にはこのクラス化合物の特色である特定DNA配位基と活性化の引き金部の研究に一層の期待をしたい。即ち癌細胞に多いDNA配列を認識する側鎖や癌細胞で働く起爆装置が工夫結合できれば今までよりはるかに優れた抗癌剤開発につながることは明らかである。この数年ジイネン化合物で作用機構との係わりにおいて展開された合成研究は, この化学的ターゲッテング抗癌剤が夢でないことを示している。

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