- 著者
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辻 達彦
永田 稔
伊藤 洋子
今村 晋
松井 寿夫
芦沢 義郎
- 出版者
- 日本衛生学会
- 雑誌
- 日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.2, pp.294-301, 1973
亜鉛製錬所全従業員1398人のCd特殊健診第2次健診として,第1次健診成績をもとに抽出した214人(男181女33)の尿中Cd量の,測定を行ない,成績の検討をした。その主なる所見は以下のごとくであった。<br>1)対象集団の尿Cd量の中央値は男4.7μg/<i>l</i>,女4.1μg/<i>l</i>であった。10μg/<i>l</i>以上のCd量を示すものは男29人(16%),女5人(15.2%)であった。<br>2) 職場環境としての気中Cd濃度は昭和46年では高濃度職場でも0.024mg/m<sup>3</sup>と許容濃度以下であるが, 44年時の測定では最高0.73mg/m<sup>3</sup>で許容濃度を超えている職場が多くあった。<br>3) 職域群別分類で尿中Cd量を比較するとき製錬2課(群V)と,その下請作業者(群VI)および退職者(Cd作業経歴者)は他群に比し高値を示す傾向にある。<br>4) Cd作業者の作業従事年数と尿中Cd量間には, <i>r</i>=0.330と低度ながら有意の相関々係を認めた(<i>P</i><0.01) 10μg/<i>l</i>以上のCd量を示すものは勤続2年の女1例を除いてはいずれも3年以上の勤続者である。また, Cd作業者について10μg/<i>l</i>以上の排泄者をみるとき,従事期間5年を境に出現率は有意に高率となる(<i>P</i><0.01)。<br>5) 10μg/<i>l</i>以上のCd量を示すものは,それ以下の群に比して自覚的愁訴が全般的に多い。両者間で統計的に有意差を認める愁訴としては「よく手足がつる」「下痢をし易い」「耳鳴りがする」「腰痛」の, 4項目がある。<br>6) 内科精密検診対象者としてCd 1日排泄量20μg以上の9人を選定した。これらは,いずれも何らかの所見を有するが,そのうち3例については慢性Cd中毒の検討対象としては,除外できることが検討会で承認された。不受診者1例を除いた残り5例は継続観察が必要である。なお,これら9例は全てCd作業者またはその経歴者である。<br>内科精検所見の一部引用を,こころよく御了承下さった,本学第一内科学教室主任,小林節雄教授に深謝します。