著者
米地 文夫
出版者
東北地理学会
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.111-118, 1990

磐梯山の1888年噴火は関谷・菊池 (1888) 以降, 長い間「前兆無き, 激しい水蒸気爆発」と言われてきたが, 近年多様な前兆的現象の存在を肯定する見解が出され (菊池1984, 1986, 廣井1988, 八島1988など), また磐梯山が抜けるという風説が噴火を予言していたとする話を信じる人が多くなった。前兆や予言があったとする見解が増えた一因は井上靖の小説「小磐梯」にあるが, 筆者は一次資料を検討し, 資料として小説を用いるのは妥当ではないことを明らかにした。最も信頼性の高い「磐梯山噴火口供進達之義ニ付上申」の検討の結果, 地震以外に前兆らしき確実な変事が無かったという点で23人全員の証言がほぼ一致していた。噴火前の地震に関する証言は, 磐梯山東南麓では「無し」, 東麓の磐梯山よりでは「10日程前に大きな地震があった」と答え, 北方~東北方では噴火数日前に地震を感じている。「山が抜ける」という予言的風評は, 噴火の予言ではなく, 会津地方に多発していた地すべりを指していたと考えられる。以上の結果は同噴火が「小規模な噴火と大規模な崩壊であった」という, 守屋 (1980), Yonechi (1987) らの説と整合的である。

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