著者
後藤 直
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.285-302, 1994

朝鮮半島の原始農耕は, 近年の集落遺跡発掘調査と栽培穀物遺体発見例の増加によって, 耕地・耕作具など不明の部分もあるが, その輪郭が明らかになりつつある. 畑作農耕は, 中国東北地方新石器時代の畑作農耕の伝播により, 有文土器時代中頃 (紀元前4,000~3,000年) に始まったと推定される. 次の無文土器時代 (紀元前1,000年) に農耕社会が形成され, この時代には水稲農耕が始まった. 暖かさの指数の等値線分布と畑作・水稲耕作の分布はほぼ対応し, 漢江流域より北では畑作が主で, 水稲耕作はほとんど行われなかった. 漢江流域以南では畑作とともに水稲耕作が行われ, 水稲耕作は南ほど盛んであった.<br>農耕集落遺跡の立地は5つにわけられる. (1) 山間部の河川中・上流部の河川沿い, 曲流部, 合流部の河岸段丘などは, 漁撈・狩猟・採集にも適し, 小集落, 支石墓が点在するが, 狭隘なため耕地の拡大と農耕社会の発展には限度がある. 水稲への依存度も低い. (2) 河川中流から下流の平野部の河岸段丘や中洲と, (3) 小平野や谷底平野に面する低丘陵に立地する集落は, 畑作農耕・水稲農耕いずれの場合も耕地の拡大が可能であり, 農耕社会発展の中心であった. ここに支石墓のほか, 地域的・政治的統合を示す青銅器副葬墓が多い. (4) 山頂に立地する遺跡は少なく, 何らかの事情による特殊例であろう. (5) 海岸部には農耕をほとんど行わない漁撈民の遺跡も立地する. かれらは, とくに南海岸では海上交易の担い手として, 内陸部の農耕集落と結びついていた.

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