著者
西野 理子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.12-12, 2000

『入門』とあるが、「家族社会学ってなにやってるの?」という疑問に、半分答えて半分答えない本である。「答えない」というと否定的に聞こえるが、本書の意義は前半の「答える」部分にある。というのも、本書は「若い研究者、院生、学生のためのテキスト」として編集された『社会学研究シリーズ-理論と技法』の第1巻であり、「理論と実証の統合、統一」をめざして、「先行研究の整理、そこからの問題の発見などについて」「実際に研究を進めていく手だて、技法を教えるもの」になるように編集されている。その点、ほかの教科書とは異なり、家族ではなく家族研究を理解するための書である。日本家族社会学会の機関誌でも、創刊号と第2号では「いま家族に何が起こっているのか」をとらえようという特集が、10周年記念特集号では「家族社会学の回顧と展望-1970年代以降」と題する特集が組まれた。10年の間をおいて、現象としての家族理解から、家族研究自体を認識し直そうという動きがあり、本書の登場もそうした時代的要請にみあったものといえよう。そもそも、実証研究が多い割に理論的蓄積が十分に進んでいないという家族研究の課題克服への試みでもある。<BR>全体は4部構成となっており、第1部が「家族研究の系譜と概観」、第2部で「家族発達的研究」「歴史人口学」「社会的ネットワーク論」それぞれの分野における家族研究の展開が、基本的な用語の解説とともに紹介されている。第3部で夫婦関係と親子関係から家族の内部過程への接近を概括し、第4部で実証研究の方法と理論研究の動向を概説している。単なる研究動向の概述というより、すでにさまざまなかたちで公表されている各分野のレビューをふまえたうえでの整理と展望である。とりわけ第3部は、論者自身の問題関心も織り込んで、研究者相互のコミュニケーションを啓発している。<BR>事象への関心をどのように展開させていくか。研究の最初の一歩に大変有益な教科書である。学部生には、本書が編集された背景など、社会学全般と関連させた解説があったほうがよさそうだが、家族研究を志す大学院生には、ぜひ精読しておいてもらいたい必読書である。本書の随所に「袋小路に陥らせず」「停滞状況に突破口を見出すには」とあるように、研究者がもう一度、全体を見渡して理論的地盤を固めるのにも役立つ書である。また欧米諸国の家族研究書の章構成と比較してみるのも一興である。

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