著者
大坊 郁夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.11-26, 1982
被引用文献数
3 2

本研究の目的は, 対面的な2人会話事態における発言と視線の時系列的な活動性の構造を, 話者の不安水準と対構成条件との関連で検討しようとするものである。<BR>あらかじめ, TaylorのMASによって高・中・低の3種類の不安者群を規定して短大・大学1年の女子学生各不安者群20名計60名を被験者とした。対面場面において・2人の組み合わせ計6通りを構成し, 会話実験を行った。被験者は互いに未知の者同士であり, 1回24分間の会話を日を変え, 各回異なる中程度の興味の話題で2回行った。本報告では, そのうち初回の記録を分析対象とした。<BR>言語活動性の指標としては, 時系列的に0次の4種類の状態 (同時沈黙, 同時発言, 2名各々の単独発言) を基本として, 各対の総発言時間, 発言総頻度や同時沈黙後の単独発言, さらに, 発言交代に関する2次の状態を用いた。視線活動性の指標としては, 4種類の0次状態 (相互視回避, 相互視, 2名各々の一方視) の他に, 相互視回避後の一方視をとりあげた。いずれも, 頻度, 度数平均時間, 総時間を測度として6分間毎の値を算出した。合計50指標を分析のために用いた。これらの指標値に主因子分析, Varimax回転法を適用し, その因子負荷量, 因子得点を算出した。<BR>因子分析の結果によると, 言語活動性と視線活動性とは因子的には独立の構造を各々示している。抽出された因子は, 言語活動性, 視線活動性各々についての共同的な活動性, 個体単独の活動性, 会話相手単独の活動性であり, さらに発言中断生起性, 個体単独, 相手単独の沈黙後発言の因子, 相手の発言持続-発言中断の強さの因子であった。なお, 言語活動性の因子次元は, 非対面会話事態での因子次元と類似している。<BR>話者間の不安水準差の有無 (不安落差群, 一致群) ごとに因子的特徴を比較すると, 共同的な活動性については, 発言面では, 不安落差群>不安一致群, 視線活動面では, 不安一致群>不安落差群の大小関係が認められた。個々の活動性については, 言語活動性では, 不安一致群>不安落差群, 視線活動性では, これと逆転した関係があり, 二重の相補的関係が認められた。<BR>発言と視線の動きとは独立のチャンネルを形成しているが, 相互作用者間の関係によって, 顕著な有機的関係を示すものであることが知られた。また, 不安落差群, 一致群間の判別的特徴を示す因子のなかでは, 個体発言, 中断の生起性因子, 共同的な言語活動性因子の有効性が視線活動牲よりも大きいことが知られた。<BR>両話者の個体単独の活動性を示す指標間の関係を比較すると, 一回あたりの単独発言時間は, 正の相関関係を示すものの, 発言の総時間については, 2名の間に負の相関関係があり, 会話全体としての一定の水準を保つ相補的な関係がみられる。また, 両者の視線活動性について, および言語活動牲と視線活動性との間にも話者間で弱いが相互依存的な関係が認められる。しかし, その関係は, 不安落差の有無という話者の対構成条件によって異なる。<BR>これらのことから, 単純な加算的見方ではないコミュニケーションの多次元的な研究の必要性, コミュニケーションにおける相互作用者間の関係の重要性が指摘できる。

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