著者
遠藤 由美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.150-167, 2000
被引用文献数
1 1

自尊感情は心理学におけるもっとも重要な概念の一つでありながら, これまで自尊感情とは何かという議論はあまりおこなわれてこなかった。本稿では, これまで明示的に示されることがほとんどなかった自尊感情に関する従来の考え方を探り, 伝統的な「自己」が現実世界の社会的状況や人間関係性から切り離され過ぎていたという問題点を指摘した。次に, 最近提唱されつつある自尊感情への生態学的・対人的視点をとったアプローチを紹介し, これまで整合性のある説明を与えられなかった点について, 新たな観点から議論した。最後に, 今後の研究課題と意義を提唱した。
著者
堀毛 一也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.116-128, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
34
被引用文献数
11 4 17

本研究では, これまで行われてきた異性関係スキル研究の問題点を整理するとともに, 1) 異性関係スキルの分類および基本的スキルとの関連性の検討, 2) 関係の発展・崩壊とこれらのスキルの関連性の検討という2点を目的とした調査研究を行った。そのためにまず, 現在進行中の恋愛体験について, 熱中度や, 類似性, 重要性などいくつかの項目で評定を求めた。また, 過去の失恋体験についても, ショックの大きさ, 関係から得た自信などについて評定を求めた。同時にオリジナルに開発した社会的スキル尺度 (ENDE2) と異性関係スキル尺度 (DATE2) により, 基本スキルと異性関係スキルの測定を行った。因子分析の結果, ENDE2では, 男子4因子, 女子3因子が得られた。このうち記号化スキルと解読スキルはどちらにも共通に含まれていた。DATE2の分析からは, 男子7因子, 女子6因子が抽出された。2つのスキル間の関連性を検討したところ, 女子では記号化・解読スキルと異性関係スキルの問に中程度の相関が見られた。一方男子では, 基本スキルのそれぞれが, 異性関係スキルの諸因子と別個の相関を示していた。この結果は, デート場面でイニシアチブを求められることにより, 男子は多様なスキルを早めに高め, 状況に応じて使い分けることが必要になるものと解釈された。また, 現在進行中の恋愛関係とスキルの関連を分析した結果, 異性・基本スキルとも関係の発展と共に高まる傾向が示されたが, その発展の過程には明確な性差がみられた。男性は, 発展の初期に相手への情熱を高め, スキルを洗練させてゆく傾向があった。これに対し, 女性は相手の特性を慎重に検討し, 関係が重要であるという認識を得た後に, 急速にスキルを発展させることが明らかになった。さらに, 過去の失恋体験もスキルの向上に影響しており, 男性では過去の失恋から得た自信やショックの大きさがスキルの向上と有意な関連をもっていたのに対し, 女性では自分から強い愛情を示しながら失恋した場合にはスキルが高まるが, それ以外に過去体験との関連はみられなかった。これらの知見はこれまでの恋愛や失恋に関する研究結果を支持するものと考えられる。
著者
樂木 章子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.146-165, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

本研究では, 乳児院や児童養護施設で生活する乳幼児が, 血がつながらない育て親 (養親) に養子として引き取られるに至る過程において, その重要な前提である, 育て親となる夫婦が養子を迎える決断をなす過程に着目した。具体的には, ある養子斡旋団体が養子を迎えようとする夫婦を対象に実施している養親講座の現場でのフィールドワークに基づき, そこで用いられている言説戦略を分析した。この養親講座においては, 養子の子育ての困難さ, とりわけ, 施設で生活する子どもとの縁組によって直面する問題が生々しく語られ, 夫婦がこれまで築いてきた生活を根底から揺るがされるものであることが強調された上で, 夫婦に養子を迎える決断を迫る。このようなプロセスを通して, 夫婦がそれまで無自覚に依拠していた諸前提が明確化され, 無意識のうちに抱いていた親子関係のイメージが否定されていく。養親講座の言説戦略は, いわば, 養子を迎えるという決断が, その後の人生における「公理」として機能しうるような状況を構成していることが示唆された。言い換えれば, 養親講座の言説戦略は, 血縁という先験性を持たない養親子において, 血縁に代替しうるような先験性を構築する試みであることが考察された。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.38-49, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究は, 大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり, 崩壊時にどのような感情を抱くのか, さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239 (男性116, 女性123) 名であった。いずれも, 異性としばらく付き合った後に, その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として“説得・話し合い”, “消極的受容”, および“回避・逃避”, 崩壊時の感情として“苦悩”, 崩壊後の行動的反応として“後悔・悲痛”と“未練”が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど, 崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ, 崩壊時の苦悩が強く, 崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は, 関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず, 男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに, もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで, 男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方, 回避・逃避行動をあまりとらなかった。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.66-82, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
64
被引用文献数
3 2

本研究は, 災害・事故が集合的に風化するプロセス-社会的な現実感が特定の災害・事故から消失していく長期的かつ社会的な過程-を測定・表現する方法について検討したものである。まず, 風化の長期的なトレンドを, マスメディアの報道量の長期変化を通して近似的に測定・表現した先行研究の成果を踏まえ, それを撹乱する2つの個別的な要因について実証的に検討した。具体的には, 第1に, 相次いで発生した複数の事象が相互に影響し, 後続事象の発生によって先行事象に関する報道量が低下する現象 (相互干渉現象) をとりあげた。第2に, 事象の発生期日をピークとして, 周期的かつ一時的に報道量が増加する現象 (周期変動現象) について検証した。その結果, これらの現象は, 一面では, マスメディア報道による風化現象の測定にとっての撹乱要因であるが, 他面では, むしろ, 災害・事故の風化現象に固有の社会過程を明示し, 記述するために利用可能であることが示された。次に, マスメディア分析を補完する新たな方法として, 災害・事故の発生後, 人々が実際に示す行動 (変数) を長期的に追尾する方法をいくつか提起し, その有効性を確認するとともに, こうした行動変数とマスメディア報道との関連性についても検討した。さらに, 共同想起の概念に依拠して, 本稿で検討した集合的な記憶と個人的な記憶との相互連関についても論じた。
著者
唐沢 かおり 三谷 信広
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.158-166, 2006
被引用文献数
2

本研究は有利な立場にいる人たちの不公平さの認知が他集団に対しての支援的態度に与える影響を,責任帰属と罪悪感の媒介的役割に着目して検討した。データは仮想世界ゲーム(SIMINSOC)の参加者124人がゲーム前半終了時に回答した質問紙から得た。仮想世界ゲームは2つの豊かな地域と2つの貧しい地域から構成されており,貧しい地域に所属する参加者がゲーム内で生存するためには豊かな地域からのサポートを得ることが重要である。豊かな地域に所属した参加者からのデータをパス解析により分析した結果,不公平さの認知が,貧しい地域の苦境に対して自分たちの地域が責任を持つという認知につながり,罪悪感を喚起した。さらに,罪悪感が友好的な関係志向につながり,そのような関係志向が支援的態度を高めた。考察では,罪悪感が実際の相互作用を伴う状況でより重要な役割を果たす可能性や,罪悪感の起源を視野に入れた研究の必要性を議論した。<br>
著者
Mizuka Ohtaka Kaori Karasawa
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1810, (Released:2018-07-10)
参考文献数
16

Although previous studies have verified that perspective-taking differs according to the individuals involved and their relationships, the balance between individual and relationship effects remains unclear. Thus, we examined perspective-taking in families based on the social relations model (Kenny, Kashy, & Cook, 2006). We conducted a triadic survey of 380 undergraduates and their fathers and mothers. We analyzed the triadic responses of the 166 families in which all three members completed the survey. It was found that perspective-taking in families is affected by the family itself, each actor, fathers as partners and all dyadic relationships. The relative contributions of individual effects and relationship effects differed between parent-child relationships and marital relationships. We discuss the implications of our findings for enhancing perspective-taking.
著者
Juri hori
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1802, (Released:2018-04-14)
参考文献数
13

Recognizing the structure of human well-being related to ecosystem services is an important first step to addressing the associated environmental issues. This paper aims to analyze the structure of human well-being related to ecosystem services in Japan (including coastal and inland areas). Satisfaction levels with the five components of human well-being (basic material for a good life, health, good social relations, security, and freedom of choice and action), as defined by the Millennium Ecosystem Assessment, were investigated using a questionnaire. Of the five components, structural equation modeling analysis indicated that “security” and “basic materials for a good life” functioned as explanatory variables, while “freedom of choice and action” acted as a dependent variable through its effects on the intermediate variables “health” and “good social relations”. This study obtained similar findings to previous studies regarding the structure of human well-being. The present results also indicate that the structural model of human well-being related to ecosystem services might be psychologically shared among people.
著者
小出 寧
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.129-136, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
14

本研究では, 性別受容性尺度を作成し, その信頼性・妥当性を確かめることを目的とする。方法は質問紙法で, 学生 (男性117人, 女性117人) を対象に調査を行なった結果, 信頼性は十分に確認されなかったが, 妥当性は確認された。得られた知見は, (a) 性別受容性は男性より女性のほうが低く, (b) 男女とも, 自己の性別と一致するジェンダー・パーソナリティが高いほど性別受容性が高くなる方向で作用する一方, (c) 男女とも, 自己の性別と反対のジェンダー・パーソナリティが高いほど性別受容性が低くなる方向で作用し, (d) フェミニスト志向が強いほど性別受容性が低くなる, の4点であった。
著者
坂元 章 三浦 志野 坂元 桂 森 津太子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.87-101, 1995
被引用文献数
1

本研究の目的は, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 人々の, 自己イメージ, 更には, 行動に影響するかどうか, また, その影響の強さが, 学術的な心理テストのそれと異なるかどうかを検討することであった。筆者たちは, 1つの実験を行い, 64名の女子の被験者を2つの群に分け, 1つの群には通俗的心理テストに回答させ, もう1つの群には学術的心理テストに回答させた。そして, それぞれの群の半分には, 外向性の偽のフィードバックを与え, もう半分には, 内向性の偽のフィードバックを与えた。実験の結果は, 外向性のフィードバックを受けた被験者が, 内向性のフィードバックを受けた被験者に比べて, 自分は外向的であると考え, 初対面の人物 (サクラ) に対して外向的に行動するようになることを示した。そして, この行動に対する影響の程度は, 通俗的心理テストと学術的な心理テストの間で同じであった。これは, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 学術的心理テストのそれと同じ程度に, 人々の行動に影響し, 自己成就現象を引き起こしうることを示唆している。実験の結果は, また, 通俗的心理テストと学術的心理テストは, 行動への影響では違いがないが, 心理的安寧への影響では違いがあることを示した。通俗的心理テストのほうが, 学術的心理テストよりも, 心理的安寧を与えていた。また, 筆者たちは, 補足的調査を行って, それぞれのフィードバック文の特徴を調べた。
著者
堀江 尚子 渥美 公秀 水内 俊雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-17, 2015

本研究は,ホームレスに対する支援のための入所施設において,継続的な支援の関係の構築を目指したアクションリサーチであり,支援の関係性の継続と崩壊という現象を理論的に考究するものである。近年,急増したホームレスの人々が抱える問題は多様である。なかでも対人関係に問題を抱える人は少なくない。ホームレスの支援活動では,当事者と支援者の関係性の継続が重要である。関係性の継続には,関係の本来の様態である非対称が非対等に陥らないことが要請され,そのためには偶有性を喚起・維持する方略に希望がある。本研究はこの方略を組み込んだアクションリサーチである。具体的には,ホームレスを多く引き受ける生活保護施設Yが開催するコミュニティ・カフェに注目し,その施設の退所者と地域の人々の協働の農作業プロジェクトを実践した。偶有性の概念を媒介にして戦略的な実践によって継続的な関係が構築された。支援関係の継続と崩壊について理論的考究を行い,労働倫理を強く持つ人々は支援を受ける当事者になることが困難であることを指摘した。
著者
林 直保子 与謝野 有紀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.27-41, 2005
被引用文献数
4

高信頼者は低信頼者に比べ他者の信頼性の欠如を示す情報に敏感に反応するという小杉・山岸(1998)の結果を4つの研究で検討した。調査1では,小杉・山岸(1998)で用いられた一般的信頼感の指標が,一般的信頼感のレベルと他者の信頼性情報への反応パターンの間の関係を検討するための適切な指標となっていなかった点を指摘した。調査1の結果に基づき,2つの実験とひとつの郵送調査では,一般的信頼感として異なるものを用いた。結果は,低信頼者が他者のポジティブ人格情報に敏感に反応し,対象となる人物を信頼するようになることを示していた。3つの研究から,高信頼者と低信頼者は対称な反応パターンを有しており,いずれも社会的な機会を拡大するという点で適応的であることが示唆された。<br>
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1819, (Released:2019-01-31)
参考文献数
11

This study examined the determinants of trust in artificial intelligence (AI) in the area of asset management. Many studies of risk perception have found that value similarity determines trust in risk managers. Some studies have demonstrated that value similarity also influences trust in AI. AI is currently employed in a diverse range of domains, including asset management. However, little is known about the factors that influence trust in asset management-related AI. We developed an investment game and examined whether shared investing strategy with an AI advisor increased the participants’ trust in the AI. In this study, questionnaire data were analyzed (n=101), and it was revealed that shared investing strategy had no significant effect on the participants’ trust in AI. In addition, it had no effect on behavioral trust. Perceived ability had significantly positive effects on both subjective and behavioral trust. This paper also discusses the empirical implications of the findings.
著者
柿本 敏克
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.97-108, 1997-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
68
被引用文献数
2

本稿の目的は, 第1に社会心理学における集団間関係研究の中心の1つである社会的アイデンティティ研究の概略を紹介することである。理論的に重要な点を取り上げながら紹介し, 現在問題となっている論点をいくつか示す。次に集団間関係にともなって生じる内集団ひいき現象について, その基本的諸要素とそれらに対してこれまでなされた代表的な理論的考察を論述する。
著者
小平 英志
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.165-174, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

本研究の目的は, (1) どの程度の被調査者が理想自己と義務自己の2種類の自己指針を区別しているのかを確認すること, (2) 現実-理想不一致と現実-義務不一致がそれぞれ自己肯定感, 自己否定感と強い関連があるという自己不一致理論 (SDT) の想定を, 優越感・有能感自己嫌悪感を指標に検証すること, (3) 現実-理想不一致, 現実-義務不一致と優越感・有能感, 自己嫌悪感との関連における相対的重要性の影響を検討することであった。女子大学生219名を対象に, 自己不一致測定尺度, 優越感・有能感尺度, 自己嫌悪感尺度, 及び自己指針に関する質問票が実施された。その結果, 理想自己と義務自己を異なる状態であるとした被調査者は4割ほどであり, 同じ状態であるとする被調査者が3割以上確認された。自己不一致と優越感・有能感自己嫌悪感との関連では, 現実-理想不一致は優越感・有能感, 自己嫌悪感の両方と, 現実-義務不一致は自己嫌悪感とのみ関連が有意であった。続いて, 相対的重要性から理想自己重視群, 義務自己重視群, 両自己重視群の3群に分割し, 偏相関係数を算出した。その結果, 理想自己を重視する群では, SDTの想定通り, 現実-理想不一致と優越感・有能感, 現実-義務不一致と自己嫌悪感との問のみに有意な関連が見られた。義務自己を重視するとした被調査者は全体の15%未満であり, いずれの偏相関係数も有意ではなかった。両方の自己を重視している群では, いずれの偏相関係数も有意ではなかった。本研究の結果から, 少なくとも理想自己を重要であるととらえる被調査者においては, 自己不一致と感情との弁別的関連がより明確になる可能性が示唆された。
著者
油尾 聡子 吉田 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-11, 2013

社会的迷惑行為の抑止方法には,禁止や制裁といった方法が取られることが多い。しかし,これらの方法は迷惑行為者の反発心を喚起させるため,長期的にみて抑止効果が弱い。本研究は,これらの方法の問題点を解決すると考えられる報酬による社会的迷惑行為の抑止効果を実証したものである。具体的には,社会的迷惑行為の行為者に対して認知者が好意の提供(親切な行動)を行うことによって,そうした行為が抑止されるのかどうかを検討した。好意を提供された迷惑行為者は,"好意を与えてくれた他者に対して,同様のお返しをしなければならない"という互恵性規範が喚起され,社会的迷惑行為を抑制すると予測された。大学生153名を対象とした実験室実験の結果,飲み物を振る舞ってもらうことを通して好意を提供された迷惑行為者の中で,特に,互恵性規範が喚起されやすかった人々は,社会的迷惑行為を抑制するよう動機づけられることが示された。最後に,好意の提供による社会的迷惑行為の抑止方法は,迷惑行為者と迷惑認知者の感情的反応と関係性の良好さをも配慮した長期的に有効可能性の高い方法であることが考察された。<br>
著者
堀毛 一也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.116-128, 1994
被引用文献数
12 4

本研究では, これまで行われてきた異性関係スキル研究の問題点を整理するとともに, 1) 異性関係スキルの分類および基本的スキルとの関連性の検討, 2) 関係の発展・崩壊とこれらのスキルの関連性の検討という2点を目的とした調査研究を行った。そのためにまず, 現在進行中の恋愛体験について, 熱中度や, 類似性, 重要性などいくつかの項目で評定を求めた。また, 過去の失恋体験についても, ショックの大きさ, 関係から得た自信などについて評定を求めた。同時にオリジナルに開発した社会的スキル尺度 (ENDE2) と異性関係スキル尺度 (DATE2) により, 基本スキルと異性関係スキルの測定を行った。因子分析の結果, ENDE2では, 男子4因子, 女子3因子が得られた。このうち記号化スキルと解読スキルはどちらにも共通に含まれていた。DATE2の分析からは, 男子7因子, 女子6因子が抽出された。2つのスキル間の関連性を検討したところ, 女子では記号化・解読スキルと異性関係スキルの問に中程度の相関が見られた。一方男子では, 基本スキルのそれぞれが, 異性関係スキルの諸因子と別個の相関を示していた。この結果は, デート場面でイニシアチブを求められることにより, 男子は多様なスキルを早めに高め, 状況に応じて使い分けることが必要になるものと解釈された。<BR>また, 現在進行中の恋愛関係とスキルの関連を分析した結果, 異性・基本スキルとも関係の発展と共に高まる傾向が示されたが, その発展の過程には明確な性差がみられた。男性は, 発展の初期に相手への情熱を高め, スキルを洗練させてゆく傾向があった。これに対し, 女性は相手の特性を慎重に検討し, 関係が重要であるという認識を得た後に, 急速にスキルを発展させることが明らかになった。さらに, 過去の失恋体験もスキルの向上に影響しており, 男性では過去の失恋から得た自信やショックの大きさがスキルの向上と有意な関連をもっていたのに対し, 女性では自分から強い愛情を示しながら失恋した場合にはスキルが高まるが, それ以外に過去体験との関連はみられなかった。これらの知見はこれまでの恋愛や失恋に関する研究結果を支持するものと考えられる。
著者
相澤 寛史
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.131-145, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
48
被引用文献数
3 2

本研究では, 相手との対人関係から得られる成果と, 相手以外の関係からの成果, 相手への投資によって対人関係が維持されるとする投資モデルの精緻化を検討した。大学生 (N=414) の同性友人関係について1) 投資モデルにないが衡平理論の概念である怒りや罪悪感という感情も含めてコミットメントへの影響を調べた結果, コミットメントへは満足が大きな影響を与えていた。関係が続くか否かはその関係への満足により大きな影響を受けており, 投資モデルの概念のみでコミットメントの説明は十分であった。2) さらに我々の成果・相手の成果を用い, 成果概念を詳細に検討した。モデル中の対人関係より得られる成果を我々の成果・相手の成果と置き換えて共分散構造分析を行った。また, 同時に親密さごとについても分析を行った。その結果, 親密さが低くなるほど相手の成果を重視する傾向が見られた。怒りを除く全ての社会的交換変数及び罪悪感は親密になるにつれ大きくなった。投資の影響は少なく, 女性では親密になればなるほど投資がコミットメントを下げる (関係を崩壊する) 方向に働く傾向が見られた。全般的に投資モデルの変数から投資を除いた方がモデルの適合が良くなる傾向を示した。
著者
野波 寬 土屋 博樹 桜井 国俊
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.40-54, 2014

正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。