著者
岩谷 舟真 村本 由紀子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.29-41, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

本研究の目的は,多元的無知の先行因を検討することである。具体的には,「集団メンバーの行動を観察したとき,その行動が彼ら自身の選好と反していると推測する者ほど,却って当該行動の『規範性』を認知し,それに沿って振る舞う」という仮説を検討した。研究1では大学生の時間厳守規範に焦点を当てて通時的調査を行い,仮説に合致する現象を確認した。研究2では,実験室実験によって当該現象の生起プロセスをより精緻に検証した。参加者は5人1組で実験室に入り,2種類の水を試飲して品質の評定を行うという課題をひとりずつ順番に行った。このとき,すべての参加者が,自分は4番目に配置されていると信じており,先行する3人が「不味い」水を「より高品質である」として選択する様子を観察した。結果,「先行の参加者は(前の人に合わせて)個人的選好と反する行動をしている」と推測する者ほど,当該の行動の規範性を知覚しており,それゆえに自らも規範に沿って振る舞う(「不味い」水を選択する)ことが示された。
著者
上原 俊介 中川 知宏 田村 達
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.89-100, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

義憤(moral outrage)とは,ある出来事やそれに関与した人物の行動が道義に反しているという知覚によって引き起こされる怒りのことを指す。怒りの研究者たちはこれまで,道徳違反を目の当たりにしたときには義憤が喚起されると仮定してきた。ところが最近の研究によれば(たとえば,Batson, Chao, & Givens, 2009),怒りの喚起は自分(あるいは自分の同胞)が危害を加えられたときにしか確認されず,私憤(personal anger)が怒りの本質であると指摘する者もいる。そこで本研究は,公正に対する敏感さ(justice sensitivity)という人格特性に注目し,義憤とは正しさに過敏に反応する人たちにみられる制限的な感情反応ではないかと予測した。日本人参加者に対して架空の拉致事件に関する新聞記事を読ませ,そのとき感じた怒りの強さを答えさせた。その結果,どんなに公正に敏感な参加者でも,強い怒りは日本人が拉致被害の犠牲になったときにしか報告されず,私憤説に一致する証拠しか確認されなかった。こうした知見を踏まえ,本研究は,私憤がきわめて堅固な反応であるという可能性を指摘した。
著者
杉本 絢奈 本元 小百合 菅村 玄二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.150-160, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
47
被引用文献数
1

「首を傾げる」ことで,疑問や不審を抱くだろうか。大学生82名が箱に空いた角度の異なる穴を覗くことで,右傾,左傾,無傾の3種の姿勢をとり,対人認知,リスクテイキング,論理的思考という3課題を行った。姿勢操作はカウンターバランスされた。その結果,首を右に傾げると,傾げない場合よりも,社会的に望ましい人物の仕事への関心を低いと評価しやすくなり(p=.002, d=0. 9),また男性は首を左に傾げた場合,傾げなかった場合に比べ,危険な行動をとると判断しやすかった(p=.014, d=0. 8)。論理的思考には差が見られなかったが,仮に疑い深くなっても論理性の判断はつきにくいからかもしれない。対人場面では提示された人物描写を字面通りに受け取らなかったと解釈でき,首傾げ姿勢が慎重な情報処理を促すという仮説は,右傾に限って支持された。右傾で仮説通りの効果がみられた理由は,大半の人は生まれつき首を右に傾けやすいからかもしれない。左傾によって軽率な行動傾向が高まったが,これは不自然な姿勢を取ったためと考えられ,右傾によって慎重になるという結果と矛盾はしない。今後は姿勢の個人差を考慮した上で,参加者間計画にし,追試をすることなどが求められる。
著者
大髙 瑞郁 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.49-59, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
18
被引用文献数
2

帰属と援助の先行研究は,貧困者が政府に援助されるに値するか否かの判断(Zucker & Weiner, 1993)や,貧困者を援助する社会政策に対する態度の規定因(Applebaum, 2001)を検討してきた。しかし,政府に援助されるに値しないと判断した人々も,社会保障政策を支持するかもしれない。なぜなら,彼らが貧困者に貧困を解決することが不可能であると判断すれば,政府に援助する責任があると判断し,社会保障政策を支持する可能性が考えられるからである。そこで本研究は,社会調査データの二次分析を行って,人々が社会保障政策に対する態度を決定する過程を解決責任(Brickman, Rabinowitz, Karuza, Coates, Cohen, & Kidder, 1982; Karasawa, 1991)の観点から検討した。結果は,低所得者は高所得者よりも,社会保障の対象となる人々の生活を保障する政府の責任を重く判断し,社会保障政策を支持することを明らかにした。考察では,格差が拡大しつつある日本社会に,本研究が与える示唆について議論した。
著者
縄田 健悟 大賀 哲 藤村 まこと
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-4, (Released:2023-03-14)
参考文献数
21

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては多くの陰謀論が存在する。COVID-19の陰謀論を信奉することで,感染リスクを軽視する認知を高め,個人としても感染リスク行動を取るようになるとともに,政府による感染防止政策を支持しなくなることが予測される。欧米ではこうした社会心理過程が指摘されており,本研究では日本でも同様の過程が見られるかを検討していく。研究1では,2021年1月に質問票調査を実施し,構造方程式モデリングによる分析を行った。その結果,仮説どおりに「COVID-19に関する陰謀論を信奉している人ほど,感染リスク軽視を通じて,個人として感染リスク行動を行うとともに,政府が感染対策政策を行うことを支持しない」と仮定したモデルの妥当性が確認された。次に研究2では,研究1の調査回答者に対して,2022年1月に縦断調査を実施した。その結果,SEMにより影響過程モデルが同様であることを確認した。また,縦断データに対する同時効果モデル及び交差遅延モデルの分析結果から仮説の因果は妥当性が高いことが示された。以上の結果は,COVID-19の陰謀論を信奉することが,COVID-19のリスク軽視をもたらし,個人や政府の感染症対策を阻害する影響がある可能性を示唆している。
著者
青野 篤子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.201-218, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
134
被引用文献数
4 2

この論文では, まず, 対人距離または個人空間 (パーソナル・スペース) に関する研究の歴史を概観し, その中でも議論の多い性差に焦点を当てて主要な研究結果と論争点を紹介する。対人距離の性差については, 男性より女性の方が小さいという一貫した傾向を認めた上で, その原因を男女の地位の差によって説明する立場 (従属仮説) と, 結果が一貫しないとする立場とが対立している。従属仮説の観点から研究をより詳細に検討した結果は以下の通りである。1) 地位の低い者は高い者より対人距離が小さいと断定するに十分な証拠はない。すなわち, 被験者ないし相手の地位それ自体が効果をもつ場合もあれば, 地位の差が効果をもつ場合もある。2) 同様に, 女性は男性より対人距離が小さいとは言えない。すなわち, 被験者と相手の性の組み合わせによって性差の現れ方は異なる。3) 対人距離の性差は, 相互作用の状況, 被験者が相手に接近する場合と接近される場合で, その現れ方を異にする。今後は, 地位の要因を統制したときに性差が消失するのかどうかの検討, 従来「性差」だと言われてきたものが「被験者の性」, 「ターゲットの性」, 「接近者の性」のいずれの要因に起因するのかの, より詳細な検討が必要である。
著者
内田 由紀子 遠藤 由美 柴内 康文
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-75, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

人間関係への満足は幸福感を予測することが知られている。しかし,人間関係が幅広く,数多くの人とつきあうことが必要なのか,それともストレスが少なくポジティブな感情を感じられるような人間関係を維持することを重視するべきなのかについては明らかではない。本研究は,人間関係のあり方が幸福感とどのように関わるのかを探るため,つきあいの数の多さと,つきあいの質への評価に注目した。研究1ではソシオグラムを利用して身近な人間関係のグループを特定し,各々のグループの構成人数や,そのつきあいで感じる感情経験などを尋ねた。その結果,つきあいの質への評価が幸福感と関連し,どれだけ多くの人とつきあっているかは幸福感や身体の健康とは関わりをもたないことが示唆された。研究2ではより広範で一般的な人間関係を対象とし,関係性希求型の項目を加えて,関係志向性における個人差を検討した。結果,一般的にはつきあいの数が多いことと,つきあいの質への評価の双方が重要であるが,人間関係を広く求める「開放型」の人ではつきあう人の数が多いことが,既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人ではつきあいの質への評価が,それぞれ人生への満足感とより関連することを示した。また,開放型は維持型に比べてより多くの人と良い関係をもち,人生への満足感も高かった。これらの結果をもとに,人間関係が幸福感に与える影響について検討した。
著者
樋口 収 下田 俊介 小林 麻衣 原島 雅之
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.14-22, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
28
被引用文献数
5 1

東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年以上たった今なお福島県の産物の風評被害は続いている。なぜ消費者は福島県の産物を危険視するのだろうか?2つの実験で行動免疫システムが活性化すると,汚染地域を過大に推定するかどうかを検討した。実験1では,プライミングの条件(病気の脅威条件vs.統制条件)に関係なく,慢性的に感染嫌悪傾向が高い人の方が低い人よりも,汚染地域を過大に推定していた。実験2では,感染嫌悪傾向が高い人では病気の脅威条件の方が統制条件よりも汚染地域を過大に推定していた。また感染嫌悪傾向が低い人では条件で差異はみられなかった。風評被害と行動免疫システムの関係について考察した。
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.160-168, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
16
被引用文献数
4 3

自尊心の高低と援助要請に関しては,正の関係を想定する脆弱性仮説と負の関係を想定する認知的一貫性仮説・自尊心脅威モデルという対立する仮説が提案され,双方を支持する知見が蓄積されている。本研究では,そのような知見を整理する1つの視点として自尊心の不安定性を取り上げ,自尊心の高低と不安定性が青年の被援助志向性および援助要請に及ぼす影響について,対人ストレスイベントの頻度・日間変動を統制した上で検討した。援助要請についてはさらに,家族・非家族という対象ごとの検討も行った。 48名の大学生・大学院生が1週間の日誌法による調査に回答した。階層的重回帰分析の結果,自尊心の高低と被援助志向性・援助要請の関係は,自尊心の不安定性により調節されていた。具体的には,自尊心が不安定である場合は高さと被援助志向性,援助要請の回数は負の関係を,特に自尊心が安定している場合は正の関係を持つことが示された。また,対象別の援助要請の分析では,上記のような関係が非家族への援助要請数でのみ認められた。自尊心の高低と同時に不安定性を検討することの意義・有用性および今後の研究に対する示唆について議論した。
著者
縄田 健悟 大賀 哲 藤村 まこと
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.182-194, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
21

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては多くの陰謀論が存在する。COVID-19の陰謀論を信奉することで,感染リスクを軽視する認知を高め,個人としても感染リスク行動を取るようになるとともに,政府による感染防止政策を支持しなくなることが予測される。欧米ではこうした社会心理過程が指摘されており,本研究では日本でも同様の過程が見られるかを検討していく。研究1では,2021年1月に質問票調査を実施し,構造方程式モデリングによる分析を行った。その結果,仮説どおりに「COVID-19に関する陰謀論を信奉している人ほど,感染リスク軽視を通じて,個人として感染リスク行動を行うとともに,政府が感染対策政策を行うことを支持しない」と仮定したモデルの妥当性が確認された。次に研究2では,研究1の調査回答者に対して,2022年1月に縦断調査を実施した。その結果,SEMにより影響過程モデルが同様であることを確認した。また,縦断データに対する同時効果モデル及び交差遅延モデルの分析結果から仮説の因果は妥当性が高いことが示された。以上の結果は,COVID-19の陰謀論を信奉することが,COVID-19のリスク軽視をもたらし,個人や政府の感染症対策を阻害する影響がある可能性を示唆している。
著者
竹村 幸祐 有本 裕美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.40-49, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

北米と同様に自発的入植の歴史を持つ北海道では,日本の他の地域とは異なり,ヨーロッパ系北米人に似た相互独立的な心理傾向が優勢であると報告されている(Kitayama, Ishii, Imada, Takemura, & Ramaswamy, 2006)。Kitayama et al.(2006)は,北海道で自由選択パラダイムの認知的不協和実験を行い,他者の存在が顕現化している状況よりも顕現化していない状況でこそ認知的不協和を感じやすいという,北米型のパタンを北海道人が示すことを見出した。本研究では,Kitayama et al.(2006)とは異なる方法で他者の存在の顕現性を操作し,彼らの知見の頑健性を検討した。実験の結果はKitayama et al.(2006)の知見と一貫し,他者の存在の顕現性の低い状況において北海道人は認知的不協和を感じやすく,逆に他者の存在の顕現性が高い状況では認知的不協和を感じにくいことが示された。
著者
宮前 良平 大門 大朗 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.94-113, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
53

本研究は,コロナ禍前後での災害ボランティアに対する排斥言説を検討し,その背後にある外集団と内集団の境界画定のなされ方を明らかにすることを目的とする。コロナ禍において社会的マイノリティへの排斥の増加が指摘されているが,このような排斥は,外集団と内集団の境界が明確な際に生じている。本研究では,コロナ禍前後での日本における災害ボランティアへのTwitter上の言説を対象とし,境界が比較的流動的な災害ボランティアへの排斥的な言説構造がコロナ禍前後でどのように変化したのかを分析した。その結果,災害発生時には怒り感情を含むツイートが有意に増え,コロナ禍には不安感情を含むツイートが有意に増えたことが確認された。次に,コロナ禍前後での災害発生時のボランティアに対するツイートを比較すると,コロナ禍のほうが災害ボランティアに対してネガティブなツイートの割合が増えることが明らかになった。さらに,ツイートの内容を詳細に分析すると,コロナ禍において災害ボランティアを排斥する言説には,感染者/非感染者の区別よりも,県内在住者/県外在住者という明確な境界画定があることが示唆された。このような県内か県外かという境界画定は,コロナ禍以前から見られたものであるが,コロナ禍における感染拡大防止という規範が取り入れられ強化されたものであると考えられる。
著者
秋保 亮太 縄田 健悟 中里 陽子 菊地 梓 長池 和代 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.101-109, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
29
被引用文献数
4

本研究の目的は,チーム・ダイアログがチーム・パフォーマンスへ与える影響に関して,共有メンタルモデルが調整効果を持つか検討することであった。大学祭において模擬店の営業を行った団体を対象に,質問紙調査を実施した。大学生・大学院生236名,29チームから回答が得られた。階層的重回帰分析および単純傾斜検定の結果から,チーム・ダイアログは客観的なチーム・パフォーマンス(目標売上達成度)へ単純な促進的効果を持っているのではなく,メンバーがメンタルモデルを共有している程度によって及ぼす影響力が異なることを明らかにした。チーム内でメンタルモデルが共有されている場合,チーム・ダイアログは目標売上達成度に関連しておらず,一定の高いパフォーマンスを示していた。その一方で,チーム内でメンタルモデルが共有されていない場合は,チーム・ダイアログが少ないと目標売上達成度も下がることが示された。主観的なチーム・パフォーマンス(主観的成果)に関しては,共有メンタルモデルの調整効果は見られなかった。本研究の結果は,暗黙の協調の実現における共有メンタルモデルの重要性を示唆していると言える。
著者
縄田 健悟
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.52-74, 2013 (Released:2013-09-03)
参考文献数
161
被引用文献数
2

本論文の目的は,集団の視点を軸に,社会心理学における集団間紛争研究の概観と展望を議論することである。本論文では,集団間紛争の生起と激化の過程に関して,集団を中心とした3つのフェーズから検討した。フェーズ1では「内集団の形成」として,自らの所属集団への同一視と集団内過程が紛争にもたらす影響を検討した。フェーズ2では「外集団の認識」として,紛争相手となる外集団がいかに否定的に認識され,攻撃や差別がなされるのかを検討した。フェーズ3では「内集団と外集団の相互作用」として,フェーズ1,2で形成された内集団と外集団が相互作用する中で,紛争が激化していく過程を検討した。最後に,これらの3フェーズからの知見を統合的に議論し,集団間紛争に関する社会心理学研究の今後の課題と展望を議論した。
著者
青野 篤子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.201-218, 2003
被引用文献数
5 2

この論文では, まず, 対人距離または個人空間 (パーソナル・スペース) に関する研究の歴史を概観し, その中でも議論の多い性差に焦点を当てて主要な研究結果と論争点を紹介する。対人距離の性差については, 男性より女性の方が小さいという一貫した傾向を認めた上で, その原因を男女の地位の差によって説明する立場 (従属仮説) と, 結果が一貫しないとする立場とが対立している。従属仮説の観点から研究をより詳細に検討した結果は以下の通りである。1) 地位の低い者は高い者より対人距離が小さいと断定するに十分な証拠はない。すなわち, 被験者ないし相手の地位それ自体が効果をもつ場合もあれば, 地位の差が効果をもつ場合もある。2) 同様に, 女性は男性より対人距離が小さいとは言えない。すなわち, 被験者と相手の性の組み合わせによって性差の現れ方は異なる。3) 対人距離の性差は, 相互作用の状況, 被験者が相手に接近する場合と接近される場合で, その現れ方を異にする。今後は, 地位の要因を統制したときに性差が消失するのかどうかの検討, 従来「性差」だと言われてきたものが「被験者の性」, 「ターゲットの性」, 「接近者の性」のいずれの要因に起因するのかの, より詳細な検討が必要である。
著者
堀毛 一也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.116-128, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
34
被引用文献数
15 10 17

本研究では, これまで行われてきた異性関係スキル研究の問題点を整理するとともに, 1) 異性関係スキルの分類および基本的スキルとの関連性の検討, 2) 関係の発展・崩壊とこれらのスキルの関連性の検討という2点を目的とした調査研究を行った。そのためにまず, 現在進行中の恋愛体験について, 熱中度や, 類似性, 重要性などいくつかの項目で評定を求めた。また, 過去の失恋体験についても, ショックの大きさ, 関係から得た自信などについて評定を求めた。同時にオリジナルに開発した社会的スキル尺度 (ENDE2) と異性関係スキル尺度 (DATE2) により, 基本スキルと異性関係スキルの測定を行った。因子分析の結果, ENDE2では, 男子4因子, 女子3因子が得られた。このうち記号化スキルと解読スキルはどちらにも共通に含まれていた。DATE2の分析からは, 男子7因子, 女子6因子が抽出された。2つのスキル間の関連性を検討したところ, 女子では記号化・解読スキルと異性関係スキルの問に中程度の相関が見られた。一方男子では, 基本スキルのそれぞれが, 異性関係スキルの諸因子と別個の相関を示していた。この結果は, デート場面でイニシアチブを求められることにより, 男子は多様なスキルを早めに高め, 状況に応じて使い分けることが必要になるものと解釈された。また, 現在進行中の恋愛関係とスキルの関連を分析した結果, 異性・基本スキルとも関係の発展と共に高まる傾向が示されたが, その発展の過程には明確な性差がみられた。男性は, 発展の初期に相手への情熱を高め, スキルを洗練させてゆく傾向があった。これに対し, 女性は相手の特性を慎重に検討し, 関係が重要であるという認識を得た後に, 急速にスキルを発展させることが明らかになった。さらに, 過去の失恋体験もスキルの向上に影響しており, 男性では過去の失恋から得た自信やショックの大きさがスキルの向上と有意な関連をもっていたのに対し, 女性では自分から強い愛情を示しながら失恋した場合にはスキルが高まるが, それ以外に過去体験との関連はみられなかった。これらの知見はこれまでの恋愛や失恋に関する研究結果を支持するものと考えられる。
著者
遠藤 由美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.150-167, 2000
被引用文献数
1 1

自尊感情は心理学におけるもっとも重要な概念の一つでありながら, これまで自尊感情とは何かという議論はあまりおこなわれてこなかった。本稿では, これまで明示的に示されることがほとんどなかった自尊感情に関する従来の考え方を探り, 伝統的な「自己」が現実世界の社会的状況や人間関係性から切り離され過ぎていたという問題点を指摘した。次に, 最近提唱されつつある自尊感情への生態学的・対人的視点をとったアプローチを紹介し, これまで整合性のある説明を与えられなかった点について, 新たな観点から議論した。最後に, 今後の研究課題と意義を提唱した。
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.165-179, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
62
被引用文献数
1 1

人間の社会的行動は,自尊心への欲求から説明されることが多かった。しかしながら,その自尊心への欲求自体が,“なぜ”人間にとって重要なのかは実証的に検討されてこなかった。この“なぜ自尊心の欲求が重要なのか”という問に存在脅威(死の不可避性の認識に基づく脅威)の緩衝という観点から答え,人間の社会的行動を包括的に説明する枠組みたるべくして登場したのが存在脅威管理理論である。本稿では,まず存在脅威管理理論の概要について紹介する。次に,既存の研究を概観し,存在脅威管理理論がもたらした成果と,個々の社会的行動の実証的検討における課題について述べる。最後に,近年報告されている存在脅威管理方略の差異に関する知見を紹介し,そのような文化内・文化間差を存在脅威管理理論がいかに捉え,組み込んでいくべきかについて展望を述べる。
著者
雨宮 有里 高 史明 杉山 崇
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1804, (Released:2019-07-19)
参考文献数
25

自伝的記憶の意図的想起と無意図的想起の検索過程についての主要な研究は,無意図的想起は抽象度が低い想起手がかりに対して直接に特定的記憶が検索される特殊な過程であると主張している。一方で,雨宮・高・関口(2011)は,無意図的想起は単に意図的想起と無意図的想起に共通の過程の産物であり,意図的想起では固有の生成的検索によってより高い特定性の記憶の想起がもたらされるとするモデルを提案している。本研究では,手がかり語法により,単語が表す出来事の経験頻度と想起意図の有無を操作し,雨宮らのモデルを検証した。その結果,無意図的想起は想起手がかりの抽象度に関わらず生じること,その抽象度に応じて想起される出来事の特定性が変化すること,意図的想起の方が無意図的想起よりも特定性が高いことが示され,雨宮らのモデルが支持された。またこのモデルは,先行研究との一見矛盾に見える相違を統合的に説明しうるものであった。
著者
上林 憲司 田戸岡 好香 石井 国雄 村田 光二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.130-138, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

社会における善悪判断を左右する道徳性が,外的要因により意識されないまま変化することが知られている。本研究は道徳性に変化を及ぼす要因の一つとして,着衣に注目した。特に,道徳性が白色および黒色と結びついていることに基づき,白色または黒色の着衣が,着用者の道徳性に関する自己認知に及ぼす影響を検討した。参加者は白色または黒色の衣服を着用した状態で,自己と道徳性の潜在的な結びつきを測る潜在連合テスト(IAT)に取り組んだ。その後,道徳性について顕在的な自己評定を行った。その結果,潜在認知と顕在認知のどちらにおいても,白服着用者の方が黒服着用者より,自己を道徳的に捉えていた。これらの結果を踏まえ,着衣が認知や行動に影響を及ぼす過程や,道徳性を変化させる要因について議論した。