著者
宮尾 嶽雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.199-209, 1976
被引用文献数
1

1967年5月より1975年5月までの間に, 中央アルプス (木曽山脈) および北アルプス南部で発見されたニホンカモシカ12頭の死体について, その胃内容物から食植物の種類を同定した。発見地点の海抜高度は1, 100~2, 000m, 死亡時期は秋 (10・11月) , 積雪期 (2~4月) , 早春 (3~5月) にわたっている。<BR>12個体の剖検例から, 胃内に発見された食植物は, 常緑針葉樹2科7種, 落葉広葉樹6科6種, 常緑広葉樹1科4種, 草本7科9種の総計16科26種になる (Table 1) 。これらを死亡時の季節別にみるとTable2およびTable3の如くになる。秋には9種で広葉樹が多く, 針葉樹は1種にすぎない。積雪期には8種の植物が食べられているが, 針葉樹が圧倒的に多い。早春になると食植物の種類は急増して18種となり, 草本の食べられる割合が多くなる。<BR>参考までに, 夏期に食痕によって確認されたニホンカモシカの食植物はTable4およびTable5の如く, 種類数はひじょうに多く, しかも草本が主な食物になることがわかる。<BR>すなわち, ニホンカモシカの食物としては, 秋に常緑広葉樹, 積雪期に針葉樹, 春から夏には草本が重要なものとなる。これを要するに, ニホンカモシカは, 新鮮な緑葉を求める動物なのである。<BR>したがって, ニホンカモシカの食生活は, 積雪期にきわめて厳しいものとなる。そのため, 山地森林の広域皆伐は, ニホンカモシカの生活を成り立たなくさせ, その結果, ヒノキなどの植林地に, ニホンカモシカによる食害が発生する。植林地への食害は, 環境破壊に対するニホンカモシカの無言の抗議行動であり, それはまた, 人間の生息環境悪化に対する警告でもある点を認識しなければならない。<BR>合成樹脂製品の断片2点が胃内にみられた1例もある。ニホンカモシカの死体は, ツキノワグマによって食い荒らされていることが多い。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 胃内容物からみた北アルプス南部産ニホンカモシカの食性(宮尾 嶽雄),1976 https://t.co/F0Xlf2OQzH 1967年5月より1975年5月までの間に, 中央アルプス (木曽山脈) および北アルプス南部で発…

収集済み URL リスト