著者
藤城 雅也 佐藤 啓造 祖父江 英明 平 陸郎 大多和 威行 梅澤 宏亘 伊澤 光 李 暁鵬 熊澤 武志 堤 肇
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.175-181, 2008

ヒト及び類人猿は他の哺乳類と異なり, 尿酸 (UA) 酸化酵素が欠損しており, プリンの大部分は最終代謝産物のUAとして尿中に排泄される.この事実に基づき, UAの単独測定がヒト尿斑の証明に広く用いられているが, 濃い動物尿の尿斑やトリの糞斑との鑑別ができない.そこで, 本研究では食事内容に影響を受けないクレアチニン (Cre) を濃度補正の対照としてUAとCreを高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で同時分析し, UA/Cre比とUVクロマトグラムを指標とするヒト尿斑証明法の開発を試みた.尿斑5mm×5mmから抽出した抽出液10μ1を島津LC-10AのHPLCに注入し, 5分まで波長293nmで分析し, 以後波長234nmに切り換え, 保持時間4.5分に出現するUAのピーク面積と保持時間5.3分に出現するCreのピーク面積の比を求めるとともにHPLCクロマトグラムを比較した.UAの極大吸収のある293nmにてUAを測定し, 5分後に測定波長を切り換え, Creの極大吸収のある234nmにてCreを測定することにより, HPLC分析で通常用いられる254nmの単一波長で測定した場合に比べ, 約4倍の検出感度が得られた.同時に, 254nmで出現する尿成分由来の夾雑ピークによる干渉も回避することができた.前記の条件で斑痕抽出液の濃度はUA, Creともに20~400μg/mlの範囲で良好な直線性が得られ, 健康成人196名 (男性158名, 女性38名) の尿斑の中央部から得られた抽出液のUA濃度は242.2±149.3μg/ml, Cre濃度は336.3±178.0μg/mlであった.健康成人196名の尿斑の中央部から得た抽出液のUA/Cre比は0.61~2.19に分布し (平均値±標準偏差: 1.06±0.32) , ハムスター, ラット, ウマ, ウサギ, イヌ, ダルメシアン, ブタ, ネコの尿斑は, いずれも0.43以下を示した.一方, トリの糞斑は15.0以上を示し, ヒトの唾液, 鼻汁, 涙, 血清, 母乳精液は4.0以上を示した.また, ヒトの尿以外の体液斑はUA, Creともに非常に小さなピークが検出されただけであり, UA/Cre比を用いず, HPLCクロマトグラムだけからも容易にヒト尿斑と鑑別可能であった.以上の結果よりUA/Cre比が0.5~2.5に分布するものをヒト尿斑と判定することとした.本法は尿斑5mm×5mmを使用するだけで, コンベンショナルなHPLCで従来の方法より簡便, 高感度, 迅速な分析ができるので, 法医鑑識領域において有用な方法となることが期待される.

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