138 0 0 0 OA 陰茎絞扼症の1例

著者
永田 篤文 小川 良雄 檜垣 昌夫 吉田 英機
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.527-530, 1988-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

陰茎絞扼症の1例を報告する.症例は32歳, 既婚男子.悪戯にて鋼鉄管を陰茎に挿入後, 抜去不可能となり陰茎絞扼, 陰茎腫脹, 尿閉を主訴に来院した.鋼鉄管は消防署所有の空気鋸を用いて切断除去し得た.絞扼時間は約8時間であった.尿道損傷および勃起障害を認めなかったため, 術後12日めに退院した.
著者
加藤 憲一 宮沢 篤生 高瀬 眞理子 東 みなみ 大塚 康平 江畑 晶夫 寺田 知正 長谷部 義幸 清水 武 水野 克己
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.373-379, 2023 (Released:2024-01-25)
参考文献数
24

動脈管早期閉鎖(premature closure of ductus arteriosus:PCDA)の原因として母体への非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti- inflammatory drugs:NSAIDs)が知られているが,近年ポリフェノールも原因となることが報告されている.ポリフェノール含有飲料が原因と思われるPCDAが疑われた1例を経験した.症例は在胎37週3日,2,730gで出生した一絨毛膜二羊膜双胎第2子.生後2時間から酸素化不良を認め,その後も酸素需要が続くため日齢1にNICUに入室した.胸部X線,12誘導心電図で右室肥大が認められ,心エコー図では動脈管閉鎖,心室中隔の平坦化,心房間の右左短絡が認められ,PCDAが疑われた.妊娠中にNSAIDsの服用はなかった.あずき茶とルイボスティーを連日飲用していたことが判明し,PCDAの原因としてこれらに含有されるポリフェノールの影響が疑われた.ポリフェノールはさまざまな食品に含まれており,一般的に健康に良いものと認知されているが,妊娠中の摂取について注意喚起が必要である.
著者
塩谷 英司 栗山 節郎 渡辺 幹彦 星田 隆彦 山本 茂樹 石川 大樹 宮岡 英世 阪本 桂造 雨宮 雷太 田中 宏典
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.385-393, 2005-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
18

当教室ではスキー・スノーボード外傷の特徴や, その予防について報告してきたが, 近年, 新たな動向がみられたので検討した.スキー外傷の発生機序は比較的画一的で, 最近はスキーボード (ショートスキー) の出現により, 下腿骨の螺旋骨折が急増した.一方, スノーボード外傷は競技種目が多彩で, 独持の滑走フォーム (サイドウェイ・スタンスで, 両足を同一平面上に固定していること) により, その発生機序も多岐に及ぶ.また, スノーボード外傷では中級者によるジャンプ着地失敗や, 初級者による緩斜面での『逆エッジ』による転倒が目立つ.ゲレンデにおけるスキー・スノーボード外傷による全体の受傷率減少を達成させるためには, いかにスノーボード外傷の受傷率, つまり, スノーボーダーにおける“エア (ジャンプ) 外傷”の受傷率を減少させるかが鍵である.
著者
谷 鋭三郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.56-63, 1961-04-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
13

TO make an inference of the postmortem duration is as important as the diffetential diagnosis of death whether by drowing or by other causer. This inference, however, is highly difficult.Text books on legal medicine and literatures hitherto published fail to give precise informations as to how long does it take before a drowned corpse start bloatiug up on the surface of water. In this connection, an investigation was made on the drowned corpses in Tokyo in the past 10 years with known date and time of death and the exact locality of appearance dy floating up. Results obtained are believed to be of some practical value in the field of legal medicine. Their reliability, further, was conrfirmed by animal experiments.1. Average days spent before drowned corpses float up by the generation of putrid gas in the rivers and in the vicinity of harbours in Tokyo (depth1.5-7.0) were markedly varyant depending on the season of the year being 1.8 days in August and 28. days in January, namely, they are closely related with the temperature of water.2. Both the specific gravity of water and the intensity of contamination are larger in the lower stream of a river. if those two factors have some association with the floating up of drowned corpses, the days required must be longer in the upper stream than those in the lower stream, but in fact no such difference was recognizable between them.3. Mean surface water temperatures of the rivers and harbours in Tokyo were determined in each month and they were tabulated with the respective findings of the days required for floating up of corpses determined by statistic calculation. Thus, a table for the inference of the days required for floating up of corpses was prepared by the difference or season or water temperature.4. Based on the findings of animal experiments, it is concluded that the reduce in the specific gravity of corpses by the generation of putrid gas takes place rather quickly after a certain lag period which is dependent mostly on the temperature of water and that it does not show a gradual increase following the lapse of time time. Accordingly, the difference in the specific gravity at the time of drowing is considered to have little influence on the duraton of the days required for floating up.5. Relationship of the water temperature and the days required for floating up of corpses observed on animal experiments confirmed the reliability of the aforementioned table prepared for the inference of the days required for floating up of corpses by the difference of season or water emperature.
著者
村永 信吾 平野 清孝
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.301-308, 2003-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究の目的は, 簡便に歩行能力を推定するために開発した2ステップテストと10m歩行速度, 6分間歩行距離, 日常生活自立度, さらに転倒リスクとの関係を求め, このテストの臨床応用への可能性について検討することである.対象は, 健常者108名, リハビリテーション通院患者108名, 合計216名であった.最大2歩幅を身長比で表した2ステップ値と10m歩行速度及び6分間歩行距離はそれぞれ強い正の相関を示した.また日常生活自立度との関係では, 2ステップ値の低下に伴い日常生活自立度も制限され, さらに転倒リスクも高くなることが分かった.これらのことから2ステップテストは, 10m歩行速度や6分間歩行距離, 日常生活自立度, さらに転倒リスクなどを反映しており, 診察室や在宅といった測定空間に制限のある場所での簡便な歩行能力を推定に利用できると言える.
著者
樋口 慧 松田 晋哉 大嶽 浩司
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.353-361, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
24

病院あたり手術数の手術アウトカムへの影響(volume-outcome relationship(VOR))については,手術数が多い病院ほどアウトカムが良いという報告が多いものの,関連がないとの報告もあり,その真偽ははっきりしない.本研究では,日本の診療報酬に用いられるDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて,大腸癌切除術に関して病院あたり手術数と在院死亡率,術後在院日数との相関を検証した.2007年,2008年の7月から12月までに大腸癌切除術を施行した患者51,878人を,病院あたり手術数の少ない順にlow群 (L群),medium-low群 (M-l群),medium-high群 (M-h群),high群 (H群)の4群に分類した.各群の患者数はほぼ同数となるよう手術数のカットラインを設定した.性別,年齢,既往歴の患者要因,術式と病院あたり手術数に関してχ2検定・分散分析を実施し,ロジスティック回帰分析・Cox比例ハザードモデルを用いて病院あたり手術数の在院死亡,術後在院日数への影響を検証した.患者要因・術式を調整してVORを見ると,L群と比較した場合,手術が多くなる順に在院死亡のオッズ比は低くなった(M-l群,M-h群,H群の順にOdds Ratio (OR) 0.87,0.73,0.53).術後在院日数は,L群からH群の順に,26.7日,22.7日,20.8日,18.3日となり,L群と比較するといずれの群も有意差を認めた(p<0.001).DPCデータを用いた本研究では,大腸癌切除術において病院あたり手術数が多いほど,有意に低い在院死亡率,短い術後在院日数が認められた.このメカニズムに関して,実践による学習効果,選択的に治療成績のよい病院に患者が集まることなどが示唆されている.本研究では診療報酬データベースの特性から患者要因と術式要因を充分に調整しきれていない可能性があり,さらなる検討の余地が残る.
著者
鈴木 慎太郎 茂木 健太郎 家城 光志 黒川 真嗣 足立 満
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.280-284, 2008-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

26歳の女性.ライチを食べた後に口腔咽頭の違和感を訴え, 次第に皮膚掻痒感, 四肢のしびれ, 悪心を認め, 救急外来を受診した.来院時, 血圧低下と意識障害も認めた.アナフイラキシーショックと診断し, アドレナリンや副腎皮質ステロイド薬などを投与し改善した.ライチに対する特異的IgE抗体測定および同種のライチを用いた皮膚試験で陽性を示した.アナフイラキシーショックに進展したライチによる口腔アレルギー症候群と診断し, 今後はライチを摂取しないように指導した.また, 本例ではこれまでに種々のパッションフルーツやスパイスでアレルギー症状の既往があり, 花粉による鼻アレルギーもあることから, プロフイリンをアレルゲンとしたpollen-fruit syndromeと呼ばれる病態を有しているのではないかと推測した.
著者
豊田 泉 土居 浩 国井 紀彦 林 宗貴 西野 猛 阿部 正 松本 清
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.362-367, 1993-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
11

脳血管障害の発生原因には, 各種の要因が存在する.性行為もその一因である.今回我々は, 昭和55年4月より平成5年3月までの, 約13年間に山梨赤十字病院及び昭和大学病院を受診した患者の中で, 病歴上明らかに性行為前後の脳血管障害と考えられる14例を検討した.症例は, 36歳から65歳にわたり, 性別に関しては, 男性13例であり, 女性は1例であった.脳出血8例, くも膜下出血6例であり, 梗塞性病変はなかった.これは, 脳神経外科系における診療データによるものであるからであろう.注目すべき点として, 性行為の相手としては, 3例のみが夫婦間であり, 残り11例は, 愛人関係や, 性風俗従事者との行為である.また, 発生場所に関して, 自宅であることより愛人宅・ホテル及び性風俗施設である.さらに, この中で, 初診時の問診にて, 性行為前後の発症であるということの情報があるものは, わずかに3例だけである.そのほとんどが, 後日, 関係者からの情報より得られるのみである.すなわち, このような症例が実は, 意外と多いことが考えられる.我々は, これらの疾患の発症様式等の詳細な検討を要する時期に来ているのではないかと考えられる.
著者
落合 裕隆 白澤 貴子 島田 直樹 大津 忠弘 星野 祐美 小風 暁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.452-457, 2010-12-28 (Released:2011-06-30)
参考文献数
28
被引用文献数
1
著者
小嶋 信博 岡 壽士 宮山 信三 浜井 直人 岩井 裕子 木村 一雄
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.601-604, 1987-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
7
被引用文献数
1

経肛門的直腸異物を2例経験したので報告する, 症例1: 25歳, 男性。自慰行為にてウイスキーのミニボトルを経肛門的に挿入.腰椎麻酔下にて非観血的に異物を抜去したが, 術後2日目になって腹膜刺激症状, 腹腔内遊離ガス像が出現開腹手術を施行し, 直腸前壁に穿孔を認めた, 症例2: 36歳, 男性自慰行為にてシャンプー瓶を経肛門的に挿入, 腰椎麻酔下にて非観血的に異物を抜去し, 術後経過は順調であった.本邦においては経肛門的異物の報告は少いが, 今後は増加することが予想され, その治療には苦慮する点も多い.われわれの経験した2症例に若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
沖野 和麿 塩沢 英輔 佐々木 陽介 田澤 咲子 野呂瀬 朋子 本間 まゆみ 矢持 淑子 楯 玄秀 瀧本 雅文
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.35-42, 2016 (Released:2016-11-26)
参考文献数
20

BRAF (V600E) 遺伝子変異に基づくBRAF (VE1) 蛋白発現は甲状腺乳頭癌において予後不良因子と報告される.BRAF (V600E) 遺伝子はRAS-RAF-MARKシグナル伝達を介し細胞増殖を制御する.BRAF分子標的療法は悪性黒色腫で実用化されている.甲状腺癌とホルモン作用に関する研究において,甲状腺癌発生にエストロゲン, プロゲステロンの関与が示唆される.われわれは甲状腺癌について,BRAF (VE1),Estrogen Receptor (ER),Progesterone Receptor (PgR) の蛋白発現の臨床的意義を検討した.昭和大学病院において病理診断された甲状腺乳頭癌59例,甲状腺濾胞癌3例,甲状腺低分化癌3例,甲状腺未分化癌4例,腺腫様甲状腺腫46例を用いた.パラフィン包埋切片に抗BRAF (V600E) 抗体,抗ER抗体,抗PgR抗体を用いて免疫染色を行った.BRAF (VE1) 発現は甲状腺乳頭癌では40例 (68%) に認められた.腺腫様甲状腺腫にはBRAF (VE1)発現は見られなかった.BRAF (VE1) 陽性群と陰性群で性別,腫瘍径に有意な差は見られなかったが,発症年齢45歳以上に有意に多かった(P=0.017).PgR発現は甲状腺乳頭癌では陽性32例 (54%),陰性27例 (46%) だった.腺腫様甲状腺腫は陽性12例(26%),陰性34例(74%)だった.甲状腺乳頭癌におけるPgR陽性例は,女性に多い傾向が見られた (P=0.057).甲状腺乳頭癌におけるBRAF (VE1) 発現とPgR発現に相関は見られなかった (P=1.000).BRAF (V600E) 遺伝子変異に対するBRAF (VE1) 蛋白発現は相関性が示されており,腫瘍のBRAF (VE1) 蛋白発現を検討することで,BRAF (V600E) 遺伝子変異の状態を評価することが可能である.腺腫様甲状腺腫ではBRAF (VE1) 陽性例は認められず,甲状腺乳頭癌におけるBRAF (VE1) 免疫染色陽性は,腺腫様甲状腺腫ではなく,乳頭癌と判断できる所見といえる.甲状腺乳頭癌において45歳以上でBRAF (VE1) の発現が有意に多く,予後不良因子である年齢 (45歳以上) との統計学的な相関が見られたことは.BRAF (VE1) 発現が臨床的予後因子である発症年齢と相関し,予後を規定する因子である可能性が示唆された.BRAF分子標的療法の適応拡大が期待される中,BRAF (V600E) 遺伝子変異とそれに伴うBRAF (VE1)蛋白発現を伴う甲状腺乳頭癌は,その有力な候補と考えられる.今回の検討で,BRAF (VE1) 蛋白発現は甲状腺乳頭癌のおよそ7割に認められる特異的所見であることが明らかとなり,甲状腺癌へのBRAF分子標的療法の拡大のための基礎的研究として,臨床病理学的に有用な知見であると考えられた.
著者
徳永 慎介
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.39-50, 1977-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
18

The histological composition and the percentage of the fatty acids of the adipose tissue on the abdominal wall from 103 subjects (males ; 45, nulliparous females ; 28, parous females ; 30) were examined. The materials used in this studies were obtained from the autopsy subjects in Tokyo Metropolitan Medical Examiner Office.1. The subcutaneous fatty layer was divided into two layers of the superficial and deep layer by the middle layer containing abundant connective fiber elements.2. The superficial layer was generally thicker than the deep layer, and its increasing tendency was markedly than that of deep layer in male but a few in female.3. The numbers of the connective tissue fibers were always more in the superficial layer than in the deep layer in both sexes, and were more in order of male, parous female and nulliparous female, and increased with age.4. The size of the connective tissue fiber was larger in the deep layer than in the the superficial layer and showed the tendency becoming smaller in order of male, parous female and nulliparous female in the superficial layer.5. Concerning the percentage of the fatty acids, palmitic acid was highest in the both layers, and oleic acid in the superficial layer and linoleic acid in the deep layer were in second order respectively by male. By female, palmitic acid and linoleic acid showed equal percentage in the superficial layer and were in order of linoleic acid and palmitic acid in the deep layer.6. Unsaturated fatty acids decreased markedly at 20 and 30 of age in the superficial layer by male and showed the larger sex-difference by the aged.
著者
酒井 菜穂 上野 幸三 北林 耐 小田島 安平 板橋 家頭夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.79-86, 2005-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
23

近年欧米諸国と比較して我が国において, 急速に食物アレルギー患者数が増加している.この疾患に対する標準的な治療方法はいまだ確立されておらず, 原因抗原食品の除去療法が治療の中心となっている.我々はプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖 (Fructooligosaccaride以下FOSと略す) に着目し, その抗アレルギー作用について病理組織学的手法を用い, 食物アレルギーの新しい治療法の選択肢になりえるかを検討した.方法として卵白オボアルブミン (Ovalbumin以下OVAと略す) 感作により食物アレルギーモデルマウスを作製し, 5%FOS摂取群と非摂取群間で病理組織学的な変化について画像解析の手法を用い, 十二指腸の肥満細胞数と絨毛の浮腫発生率を計測し評価した.FOSの投与期間は2週間および8週間とし治療効果について比較検討した.十二指腸内の肥満細胞数はOVA感作で有意に増加したが, FOS8週間投与群で肥満細胞数は有意に減少した.絨毛内浮腫の発現頻度はOVA非感作群では, 5.9% (1/17例) とほとんど認められなかったが, OVA感作群の発現頻度は66.7% (20/30例) と高率に観察され, しかも高度な浮腫が認められた.一方, FOS投与群では, いずれの投与期間でも統計学的な有意差は認められなかったが, 浮腫率は減少しており, 絨毛の組織傷害の修復に効果があることが示唆された.この研究の結果よりフラクトオリゴ糖には肥満細胞数を減少させ, アレルギー治療効果を有することが明らかとなり, 食物アレルギー治療法の一つとして有用であると考えられた.
著者
南渕 明宏
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.414-420, 2021 (Released:2022-01-18)
参考文献数
41

2020年,世界人類を襲ったコロナ禍でわれわれは感染症に対するヒト個体の脆弱性のみならず,社会システムや政体の無防備さを認識させられた.今後も起こり得る感染症による災厄をもたらすものは何もウィルスに限ったことではない.さて,わが国は豊富な水資源に恵まれ,山間の渓谷に名水を求める文化風習がある.しかし本項で事例をあげ述べるように,水系がもたらす食中毒は厳然と存在する.水系を介した一次感染,いわゆる水系感染の中でも,とりわけカンピロバクター,大腸菌,レジオネラ,病原性原虫,ノロウイルスについてはわれわれの日常生活の中で「今そこにある危機」であるにもかかわらず,充分に認識されているとは言い難い現状がある.安易な取水による感染の他,偶然にも,あるいは認識不足により,自然環境から近代的浄化システムを逸脱した飲用水確保で健康被害を呈した事例は数多く報告されている.降雨による流況の変化により,自然環境の病原微生物の生態は影響を受け,それらが水系に侵入して飲用水に混入し,甚大な健康被害が生じる可能性が常に存在する現実を社会も医療人も認識すべきである.