- 著者
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長谷川 真紀子
- 出版者
- The Showa University Society
- 雑誌
- 昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.6, pp.833-842, 1987
股関節屈曲の主作動筋といわれる腸腰筋 (大腰筋と腸骨筋) の筋線維構成を観察し, 両筋を比較するとともに, ヒトの他筋と比較して, その機能的特徴を検討した.研究対象は10%ホルマリン水注入屍から得られた大腰筋左右11対 (男性: 6, 女性: 5) と腸骨筋6側 (男女各3) で, これらはセロイジン包埋, HE染色を施した.また, 45歳女性の未注入屍から大腰筋と腸骨筋を採取し, Sudan BlackB染色を施し, 筋線維を分別し, 前者と対比した.結果: 1.Sudan BlackB染色による所見1) 3筋線維型の比率は, 白筋線維が大腰筋では41.3%で最も高く, 腸骨筋では38.3%で中間筋線維 (40.5%) とほぼ等しく, 両筋とも赤筋線維が少なかった.2) 3筋線維型の太さの平均値は, 両筋ともに, 赤筋線維, 中間筋線維, 白筋線維の順に大で, 赤筋線維の太さは白筋線維の約3倍であった.3) 筋線維密度は, 筋線維型別に見ると大腰筋では赤筋線維が, 腸骨筋では中間筋線維がそれぞれ最も高く, 白筋線維の密度は低かった.これは本筋群の持続的収縮傾向を示すものである.II.HE染色による所見1) 筋腹横断面積は大腰筋では男性が女性よりも優ったが, 腸骨筋では性差を認め難く, 両筋問では男性では差がなかったが, 女性では腸骨筋が大腰筋よりも優る傾向が見られた.これは骨盤部形態の性差に基くものと考えられた.2) 1mm<SUB>2</SUB>中の筋線維数は, 大腰筋では性差なく, 腸骨筋よりも多く, 後者では女性の方が男性よりも優る傾向が見られた.3) 筋腹横断面における筋線維総数は両筋とも上腕二頭筋あるいは前脛骨筋に匹敵し, 男性では大腰筋が, 女性では腸骨筋がそれぞれ他よりも多かった.4) 筋線維の太さは腸骨筋が大腰筋よりも優り, 大腰筋は上腕二頭筋, 胸鎖乳突筋, 咬筋等に, 腸骨筋は僧帽筋尾側部, 小菱形筋, 肩甲挙筋等にそれぞれ匹敵し, 両筋とも男性が女性よりも優る傾向が見られた.その分布型は大腰筋では単峰性の左方推移型が, 腸骨筋では多峰性の右方推移型がそれぞれ多く, 大腰筋では退縮傾向が著明であった.5) 筋線維の密度は両筋とも80%前後で, 大腰筋では男性が女性よりも優り, 男女とも加齢的に低くなる傾向が認められた.6) 以上の事から, 本筋は主として股関節の屈曲位の維持に働き, それぞれ大凡上腕二頭筋に近い筋力を有し, 歩行に当って腸骨筋は大腿の外旋にも働き, その傾向は女性で著しいと考えられた.