- 著者
-
菱川 健司
- 出版者
- Showa University Dental Society
- 雑誌
- 昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, pp.69-80, 1993
扁平上皮細胞の角質層の形成には間葉系細胞との相互作用が重要な要因となっている.そこで本研究は舌粘膜上皮より分離した上皮細胞の基質としてコラーゲン・ゲルを用い, そのゲル中に舌粘膜結合織より分離した線維芽細胞および鼠頚部皮下脂肪組織より分離した脂肪細胞をコラーゲン・ゲル中に含有させた.これらの問葉系細胞の含有の違いや上皮層の空気暴露の有無による上皮細胞の分化形態を検索した.いずれの間葉系細胞を含有しないコラーゲン・ゲル表而に上皮細胞を培養した場合では上皮細胞の空気暴露の有無に関わらず, 角質層の形成は認められなかった.また, 上皮細胞の特有な構造であるトノフィラメントの形成は少なく, 基底膜やヘミデスモゾームの形成は認められなかった.コラーゲン・ゲル中に線維芽細胞を含有させた場合, 細胞を含有しないコラーゲン・ゲルでの培養と比較し, 空気暴露の有無に関わらず, 上皮細胞の重層化を強く認めた.この上皮の重層化は空気の暴露により促進され, 上皮の表層細胞でケラチンパターンを示す角質層が部分的に形成されていた.コラーゲン・ゲル中に線維芽細胞および脂肪細胞を含有させた条件で培養し, 上皮細胞を空気に暴露しない場合では上皮細胞の重層化は3-4層を呈したが, 空気暴露した場合では10層以上の上皮の重層化を呈した.さらに, すべての上皮表層の細胞はケラチンパターンを呈する角質層が形成され, 加えて, ケラトビアリン顆粒や基底膜の形成が認められた.以上のことより, 上皮細胞の正角化の形成やケラトピアリン顆粒の形成などは間葉系細胞との相互作用および上皮細胞への空気暴露が不可欠な因子であることが示唆された.これらの因子は上皮細胞の特有な細胞構造であるデスモゾーム, トノフィラメント, 基底膜およびヘミデスモゾームなどの形成にも強く関与していることが判明し, この方法は, in-vitroの角化上皮の非常に優れた三次元的培養系となることが示唆された.