著者
中澤 渉
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.23-40, 2012

本稿では,日本ではまだ利用例の少ないパネル・データ分析が,社会学においてなぜ重要なのかが説明される.回顧法の調査でも時系列データをつくることはできるが,曖昧な記憶による不確実な回答で信頼性が低下したり,サンプルの選択バイアスが生じるという問題がある.特に社会科学の重要な課題である因果関係の解明には,時間の経過に伴う変化の情報が不可欠であり,パネル・データでなければ精度の高い分析はできない.さらに通常の最小二乗法では,観察できない異質性と独立変数との相関の存在から,不偏推定量を求めることができない可能性があるが,計量経済学的固定効果推定により因果効果の純粋な取り出しが可能になる.さらにマルチレベル分析の集団平均センタリングを応用したハイブリッド・モデルの紹介を行い,個人間と個人内の変動を同時に推定できることを示す.最後にパネル・データ分析を行う上での今後の課題をまとめる.

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