著者
佐藤 慶明
出版者
THE CARBON SOCIETY OF JAPAN
雑誌
炭素 (ISSN:03715345)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.261, pp.29-31, 2014

<i>sp</i><sup>2</sup>炭素の2次元ハニカムネットワーク構造をもつグラフェンは,その特異的な π 電子物性が注目されるとともに,現在のナノ物性科学の重要な一端を担っている。特に,原子1層の厚さしかないグラフェンでは,表面に吸着した分子がグラフェンの π 電子状態を大きく変調させるゲスト種として働き,電子輸送特性など様々な電子物性の変化が顕れる。したがって,表面分子・グラフェン間に働くホスト–ゲスト相互作用のメカニズムを理解し制御することが重要となる。本学位論文では,ゲスト種として弱い電子アクセプターとしての性質と,三重項(<i>S</i>=1)磁性を併せ持つ酸素分子に着目した。グラフェンFET (Field-Effect Transistor)デバイスにおける電子輸送特性の測定実験を通して酸素吸着効果を系統的に検証し,圧力・温度条件による酸素吸着構造の変化に応じた,様々な電子的・磁気的変調効果がグラフェン電子物性に顕れることを明らかにした。また,吸着現象もグラフェンの電子状態の影響を強く受けており,外部電場等によりグラフェンの電子密度を変調させることで,酸素吸着の挙動を制御可能であることを示した。<br>本学位論文は全6章から構成されている。第1章で本研究の背景,目的,意義を述べた後,第2章で電子輸送ならびに電荷移動反応過程の考察に必要な理論的枠組みを提供した。第3章ではグラフェン電子輸送特性に対する室温下酸素吸着効果を電子散乱・電荷移動の2点に着目して議論した。電荷移動活性のフェルミ準位依存性を反映した酸素吸着挙動変化が観測されたことを踏まえ,電気化学反応機構の知見をベースとしたグラフェン上吸着キネティクスの理論的モデル構築を行い,グラフェン等の低次元物質に対する吸着の特殊性について指摘した。第4章では第3章の結果を発展させ,グラフェンをデバイス化したときに問題となる電荷分布の空間的不均一性が室温化学吸着に与える影響について実験・理論両側面から議論し,吸着分子の空間分布制御の可能性を示唆した。第5章では,液体窒素温度以下での低温における酸素吸着(物理吸着)効果について述べ,観測された異常な磁気抵抗振動と,グラフェン伝導電子–吸着固体酸素2次元スピン格子構造間の磁気的相互作用の関連について記述した。第6章では本研究における成果をまとめ,今後の展望について述べた。本稿では,学位論文の主要部である第3章から第5章にかけて説明する。

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