- 著者
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秋山 麻実
- 出版者
- Japanese Educational Research Association
- 雑誌
- 教育学研究 (ISSN:03873161)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.2, pp.191-200, 2000
本稿は、19世紀イギリスにおいて、ガヴァネスとその雇用者との葛藤および家族の純化について論じたものである。「ガヴァネス問題」とは、当時のガヴァネスの供給過多によって浮上してきた問題であり、これまでこれは、彼女たちの経済的困難に関する問題として捉えられてきた。また、この問題は、階級とジェンダーの境界に関わる彼女たちの微妙な立場という問題を含むものとして捉えられてきた。これらの問題は、19世紀中葉の多くの定期刊行物、とりわけフェミニズム雑誌において言及されている。しかし、そのような定期刊行物の記事のなかでも、特に今日代表的とされているものにおいてさえ、それらを仔細に読んでいくと、ガヴァネスに関する問題におけるより根本的な要素が浮び上がってくる。それは、ガヴァネスが、雇用者の家族のなかにポジションを得ようとしているのではないか、という中産階級の不安である。ガヴァネスに関する問題におけるこうした側面は、階級の越境という問題に収斂されるべきではない。家族の境界を脅かすことは、階級の越境より危険視されることである。というのも、ガヴァネスが狙っているのは、単に家族の一員であるというポジションではなく、母のポジションだからである。彼女は、単に境界を侵すというだけではなく、家族関係の秩序そのものを乱すのである。ガヴァネスは、1848年のガヴァネスに関する有名な論稿において言われているように、「タブー化された女性」 (tabooed woman)なのである。ガヴァネスのポジションに関する中産階級の不安は、彼女たちが母の代理としての役割を果たす存在であるということと、19世紀半ばに〈家族〉(family)観念が変化していったことに起因している。〈家族〉という語は、サーヴァントをその範疇から排除し、核家族を中心とした集団を指すようになった。その変化に伴って、ガヴァネスのポジションは、曖昧なものとなってきたのである。ガヴァネスの経済的困窮を緩和するために、フェミニズム雑誌においては、彼女たちと雇用者が契約書を作って、報酬や労働条件を決めることを奨励した。しかし、契約書を作るということは、ガヴァネスを近代的雇用関係の文脈に置くことにほかならない。そのため、結果的には、契約書を作るということは、ガヴァネスを雇用者の家族から外部へと移行させることに貢献することとなった。すなわち、〈家族〉はその境界領域に住う存在を排除し、よりいっそう純化していく方向へと向ったのである。