著者
小笠原 好彦
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.9, no.13, pp.49-66, 2002

古墳時代には,各地の首長が首長権を執行する居館を構築した。この居館に建てられた建物と深い関連をもって描かれたとみなされるものに奈良県佐味田宝塚古墳から出土した家屋文鏡がある。この鏡には,高床住居,平地住居,竪穴住居,高床倉庫の4種の建物が描かれている。このうち高床建物には露台と衣蓋,樹木が描かれており,ほかの建物と同じく屋根上に2羽の鳥を表現する予定であったと想定され,中国の漢代の武氏祠などに描かれた昇仙図の楼閣建物の系譜を引く可能性が高く,首長がほかの3つの建物とともに,他界後に神仙界でかかわる建物として描かれたものと推測される。<BR>一方,首長居館に設けられた囲繞施設に関連するとみなされる形象埴輪に,囲形埴輪がある。この埴輪の用途には壁代,稲城など諸説がだされており,居館の塀と門を表現したものとみなす考えを提起してきたが,なお明らかでなかった。しかし,近年,兵庫県行者塚古墳,三重県宝塚1号墳,大阪府心合寺山古墳などから古墳に配置された状態で見つかっており,中に木槽樋型土製品,井筒型土製品と家形埴輪が置かれていたことが判明した。このうち木槽樋型土製品は奈良県南郷大東遺跡,纏向遺跡,滋賀県服部遺跡などから検出されている木槽樋遺構を模したものとみなされるので,浄水施設を覆った上屋である家形埴輪を囲んだものと推測して間違いないであろう。そして,宝塚1号墳から井筒型土製品を囲んだものも出土していることからみて,これらは漢代の昇仙図に「其の江海を飲む」と書かれているものがあるように,首長が神仙界を訪れた際,飲料水の浄水を欠かすことがないように古墳に置かれたものと推測される。<BR>一方,三重県石山古墳では,東方外区から倉の家形埴輪群とともに4個以上の囲形埴輪が出土しており,これらは昇仙図に「太倉を食する」「大倉を食する」と記されたことと関連をもつ可能性が高く,神仙界で首長が食糧が尽きることのないように置いた倉庫群を警固したものかと思われる。このように,古墳には首長居館と深い関連をもち,しかも黄泉国世界との関連で,副葬品や墳丘に配置されたものが少なくないように推測される。

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