- 著者
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久保 妙子
- 出版者
- The Japan Society of Home Economics
- 雑誌
- 日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.1, pp.27-37, 2003
本研究では接地型の住宅地として, 一般的な戸建住宅地, 分譲テラスハウスおよび市営住宅を選び, 近隣コミュニケーションの現状と意識を, 居住者に対する質問紙調査をもとに考察したものである.結果を要約すると以下のとおりである.<BR>(1) 近隣コミュニケーションの第一歩と位置づけられる, 住戸外に出る回数は, テラスハウスで最も少なく, 戸建住宅では中間程度で, 市営住宅で最も多い.またこれらの接地型住宅地では, 住戸外に出る回数が高層集合住宅に比べて多い傾向がある.<BR>(2) 親しいつきあいをしている人がいる割合は, 男性では3~4割, 女性では6~7割で, とくに戸建住宅の女性で親しいつきあいが多い.<BR>(3) 立ち話をする人がいる割合は, 男性では7~8割, 女性では9割以上で, とくに戸建住宅で多い.それに対して挨拶する人数は, テラスハウスと市営住宅の方が戸建住宅より多い.戸数密度がやや高く, 範囲を認識しやすい特徴ある住宅形態が, ひとつのまとまりとして居住者に捉えられていると考えられる.<BR>(4) 近隣コミュニケーションのきっかけは, 家が近いことの他に, 子供や自治会の関係を通じてが多い.子供を通じては女性で多く, 自治会はどちらかというと男性で多く, きっかけの得にくい男性にとって自治会の果たす役割は大きいといえる.<BR>(5) 立ち話の場所は, 日常的に通る玄関前や街区内の道路が多く, コミュニティスペースとして設えられた公園等は少ない.さらにコミュニティスペースとして, 東屋や貸し菜園, ベンチ等の要求がみられる.<BR>(6) 向こう三軒両隣におけるつきあいの状態は, 「会えば挨拶する程度」「なかには立ち話する人もいる」「なかには親しい人もいる」が, 約3分の1ずつで, 必ずしも親しいつきあいがおこなわれているとは限らない.意識としては, 7~8割が向こう三軒両隣にこだわらず気の合った人とつきあいたいと考えている.<BR>(7) 近隣コミュニケーションとしておこなわれていることで多いものは, 「旅行等のお土産のやり取り」「宅配物の預け合い」「食料品などのおすそ分け」「留守にするときの声かけ」「慶弔時の手伝い」である.一緒に出掛けるような親密なつきあいは, 向こう三軒両隣に限られず離れた家との間にも生じている.「日用品の貸し借り」は高層集合住宅の方が多く, 「留守にするときの声かけ」は接地型住宅地の方が多い.<BR>(8) 近隣コミュニケーションについての意識は, つきあいの有無に関わらず, 近所づきあいをしたいという肯定的な意見と, したくないという否定的な意見が, 対象による差はあるものの全体としては約半数ずつで拮抗している.<BR>(9) 市営住宅において, 建設当初から住み続けている高齢男性の問に, 長い年月をかけて形成された親密なコミュニティの事例がみられる.<BR>以上のような接地型住宅地においては, 接地していることによって住戸外に出やすく, 近隣コミュニケーションも少なからずおこなわれている.しかし, かつては近隣の基本単位であった, 向こう三軒両隣におけるコミュニケーションは必ずしも親しいものではなく, 近隣のなかでも気の合った人と必要なときにコミュニケーションがとれる状態であることが求められているといえる.住戸のタイプごとの形態と密度, そして市営住宅の例にみられるように, 長く住み続けられるか否かが, 近隣コミュニケーションに影響を与えていることがうかがえた.また, 接地型住宅地においてはコミュニケーションのための空間が充実しているとはいえず, 日常的に使用しやすい簡易な休憩の場所等を含めた, 住環境の総合的な計画が必要とされていると考えられる.