著者
埴原 恒彦
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.100, no.3, pp.291-302, 1992
被引用文献数
2

ポリネシアにおける集団の拡散過程については,考古学をはじめ,言語学,形質人類学等の領域から様々な仮説が提唱されている.比較的オーソドックスな仮説は本文に記載したが,今日それが広く受け入れられているわけではない.本研究ではポリネシア諸集団の歯冠形質について,その集団間変異を明らかにするとともに彼らの拡散過程を検討した.<br>トンガ,マルケサス,ソサイアティ,ハワイ,オアフ,カウアイ集団を比較対象とし,歯冠の計測データ,非計測データを多変量解析法により分析した.計測値による分析では,トンガとマルケサス集団が類似性を示し,またハワイ諸島の3集団も相互に類似する.また,これら3集団はトンガーマルケサス集団とソサイアティ集団の双方に共通した歯冠形質の特徴を有する.ソサイアティ集団は上記6集団の中では,ハワイ島集団と類似するが,かなり異なった歯冠形態を示す.ポリネシア集団との関係が最も重要視されている東南アジア集団を含めた分析では,先史タイ集団が彼らともっとも類似し,中でもトンガ集団に類似する.非計測的形質による分析では,ポリネシア集団は相互に非常に類似する.さらに彼らと最も類似する集団はやはり先史タイ集団である.<br>以上の結果から次のようなことがポリネシア集団の歯冠形質について指摘できる.(1)ポリネシア諸集団は歯冠形態にっいても比較的ホモジニアスな集団である.(2)ポリネシアの祖先集団は,西ポリネシアに最初に移住し,その後,マルケサス諸島へと拡散していったとする仮説は歯の形態からも支持される.(3)マルケサス諸島がハワイ諸島,ソサイアティ諸島への最初の拡散中心となり,その後,ソサイアティ諸島が第二の拡散中心となったとする仮説にっいては本研究結果からは検証できない.(4)ハワイ諸島の集団に関してはマルケサス諸島,ソサイアティ諸島の双方から移住があったと考えても分析結果とは矛盾しない.(5)歯の形態のみに関しては,ポリネシア集団の起源は東南アジアの基層的集団,っまり中国人の南下による混血をあまり受けていない集団である可能性が追証された.

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こんな論文どうですか? Dental Variation of the Polynesian Populations.(埴原 恒彦),1992 … https://t.co/02kTSsBcT3 ポリネシアにおける集団の拡散過程については,考古学をはじめ,言語学,形質人…
こんな論文どうですか? Dental Variation of the Polynesian Populations.(埴原 恒彦),1992 … https://t.co/02kTSsBcT3 ポリネシアにおける集団の拡散過程については,考古学をはじめ,言語学,形質人…

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