- 著者
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五十嵐 由里子
- 出版者
- 日本人類学会
- 雑誌
- 人類學雜誌 (ISSN:00035505)
- 巻号頁・発行日
- vol.100, no.3, pp.311-319, 1992
- 被引用文献数
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4
現代日本人女性の遺体20体にっいて,腸骨耳状面の前下部に認められ,妊娠や出産に関係すると考えられている窪みや溝を観察し,その強さと,妊娠や出産の経験との関係を調べた.遺体の死亡年齢は49歳から99歳にわたり,このうち出産の経験がある者は16体であった.出産や流産にっいての情報は,家族へのアンケートによって得た.これらの窪みや強さは,事前に近代日本人の骨格標本の骨盤を調査して作った三段階の基準(強い,弱い,無し)に従って判定した.<br>その結果,強い窪みや溝は経産婦にのみ現れ,窪みや溝が無いと判定された1例は未産婦であった(Table 1と2).さらに,妊娠と出産の回数がわかった個体にっいて,これらの窪みや溝の出現状況を分析した結果,これらの特徴が出産の際にではなく妊娠の間に形成され,その強さは妊娠の回数とある程度の相関を持っことが示唆できた(Fig. 6).また,最終出産後18年から65年たっても,これらの窪みや溝は消えないことがわかった(Table 1).