著者
柄谷 利恵子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.309-328, 2005

市民権概念は, 領域性を前提とする主権国家体制の下で発展してきたが, 現在は不適合状態に陥っている.市民権を持たない居住者が増加し, その処遇をめぐり一定の権利付与が求められる一方で, 各国政府が市民権保有者の権利を保護し, その価値を保障することが困難になっている.グローバリゼーションは, いわゆる「市民権のギャップ」を生みつつも, 市民権の有無にかかわらず, 権利を主張しうる新たな基盤を提供している.<BR>本稿では, 海外に居住する移住者の権利要求の「基盤」として, (1) 海外に居住する市民が, 居住国での扱われ方について出身国政府に権利の代弁を要求しうる「対外市民権 (external citizenship) 」, (2) 市民権を持たない居住者として保障されるべき「外国人の権利 (aliens'rights) 」, (3) 「定住外国人の権利 (denizenship) 」, (4) 人として保障される「普遍的人権 (universal personhood) 」の4つを提示する.具体的には, (4) に基づく国際人権体制に属する, 「あらゆる移民労働者とその家族の保護に関する国連条約」の制定・発効過程を分析する.人の移動の歴史は古く, 移住者の権利侵害も絶えず存在した.したがって, グローバリゼーションを背景に主張されるようになった「人であることに由来する普遍的権利」以外にも, 移住者の権利を保護する基盤は存在していた.グローバル時代の特徴は, こういった基盤が複数存在し, それを利用する手段や代弁者が領域的制限から自由な点にある.

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