著者
田宮 三代三
出版者
International Society of Histology and Cytology
雑誌
Archivum histologicum japonicum (ISSN:00040681)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.331-344, 1957
被引用文献数
1

正常成犬の視索上核及び脳室旁核の神経分泌細胞における古典細胞学的所見を検索し, 次の成果を得た.<br>1. 細胞の形態は多極のものが最も多く, 核は円形乃至卵円形で, 多少とも偏在し, 視索上核腹内部で漏斗に近い部分の細胞には屡々核の濃縮が認められる. また例外的に2核細胞が見出される. 核小体は明らかであり, 時としてその内部に円形又は不整形の不染の空胞が認められ, それが核小体の大部分を占めることがある(この空胞は後報のごとく渇状態において増加する).<br>2. マイトコンドリア(Levi氏液, Champy 氏液, Regaud 氏液又は Zenker-formol 固定, paraffin 包埋, Regaud 氏又は Heidenhain 氏鉄ヒマトキシリン染色或は Altmann-Kull 氏染色)は短桿状のものが最も多く, 顆粒状のものがついで多く, 長糸状のものは細胞体の部分では例外的である. マイトコンドリアは細胞質内に平等に散在する場合もあるが, 又屡々核の附近或は辺縁部の Nissl 物質間に群在する場合もある. 神経線維の部分ではマイトコンドリアは長糸状で線維長軸の方向をとる.<br>3. 先ずアルデバイドフクシンで神経分泌物を染出した後 Regaud 氏鉄ヒマトキシリンで重染色を行う方法, 及び先ずマイトコンドリアを染出描画した後アルデハイドフクシンで再染色を行う方法により, マイトコンドリアと神経分泌物の関係を検討したが, 量, 形態及び配列状態に関して両者の間に一定の相関性を求め得なかった, しかし分泌物が少量である場合それらが殆ど常に比較的マイトコンドリアの多い核附近に存すること及び(後報のごとく)分泌機能の昂進時にマイトコンドリアの所見に一定の変化が認められることから, マイトコンドリアの豊富な酵素系が分泌の機序に関して密接な関係を有するであろうことは想像される. しかしマイトコンドリアの直接の変形によって分泌物の形成が行われるとは考えられない.<br>4. Golgi 装置(青山氏法又は Kolatchev 氏法)は黒い索の, 核をとりまく網工として現われることが多いが, 時には断片的に散在することもある. 網工のところどころに Golgi 内体に相当する空胞が認められる. 網工は核の偏在側と反対の側によく発達し, 屡々突起の根部に進入するが, 細胞体の表面には達しない.<br>Golgi 装置を染色した切片を更にトルイヂン青で重染色すると, Golgi 装置の外側に Nissl 物質に現われる.<br>5. 先ず Golgi 装置を銀染して描画した後, その切片をCHP法又はAF法で再染色して神経分泌物との関係を検討したが, 形態, 量, 位置に関して両者の間に一定の関係を求め得なかった. 分泌物が少量である場合, その位置は多くは Golgi 網工の内部に当るが, しかし分泌物が Golgi 装置と全く無関係に存することも多い.<br>6. 神経分泌物には微細不整形顆粒状のもの, 球形顆粒状のもの及び不整形集塊状のものが区別され, 第1型のものが最も多い. CHP法或はAF法ではこれら3型の何れのものも染出されるが, その他の染色法では主として第2型のものが染色され, 従って分泌物が染出される細胞の数も少く, この型式のものがその他のものと化学的組成を異にすることが推定される. 鉄ヒマトキシリンで分泌物を染出し得なかった細胞にも, CHP法やAF法で再染色を行えば, 微細顆粒が著明に現われる. 第3型は Herring 小体の或る場合に相当する.<br>7. Nissl 物質(純アルコール固定, セロイヂン包埋, チオニン又はトルイヂン青染色)の所見は細胞の大さによって異る. 即ち, 小形細胞には Nissl 物質を多量に有するものと殆ど有しないものとの2型があり, 中形細胞では塊状のものが辺縁部に並び粉末状のものが内部に散在し, 大形細胞では少数の塊状のものが辺縁部より少し内側に離れて存し, 粉末状のものが幾分多量に散在することが多い. 一般に塊状のものが中心部に存することは例外的であり, 虎斑状或は核周輪を呈することは認められない.<br>8. アルデハイドフクシンとトルイヂン青による重染色で Nissl 物質と神経分泌物の関係を検討すると, 小形細胞ではその2型を通じて神経分泌物は常に少量で核附近にあることが多く, 中形細胞では Nissl 領域を除き略々均等に分散してその量は細胞の大さに応じ, 大形細胞は分泌物に満ちている. 塊状の Nissl 物質と分泌物との間には明るく不染に止まる一帯が認められる.<br>9. これらの所見から, 中形細胞において神経分泌物が増量するとともに, Nissl 物質は減少し, 細胞は大形となり, その分泌物が突起内或は細胞体外に放出されると, 細胞は縮小して Nissl 物質も分泌物もともに少い小形細胞となり, ついで Nissl 物質を貯え, 分泌物の形成を始め, 両者の増大とともに漸次細胞が大形になる, という週期が推定される. 小形細胞の2型は分泌週期の開始と終了の2相に相当する所見と解釈される.

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こんな論文どうですか? 視床下部神経分泌核の組織学的研究. VI. 視床下部神経分泌細胞 (犬) における細胞学的所見:視床下部下垂体系の比較組織学的研究. 第35報(田宮 三代三),1957 https://t.co/lLClrMscWf

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