著者
日下 裕弘
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
no.3, pp.27-36, 1995

本研究は、歴史を通じてわが国の代表的な余暇文化のひとつである湯浴の意味と、その文化的特性を明らかにすることを目的としている。<br>今日の「湯浴」の起源は、古代人の神聖な精神的風土としての「禊の精神」に根ざしており、「再生」という根源的意味を担っていた。わが国における湯浴の歴史は、このような神霊やどる古代の「ゆ」(斎川水)から、仏教による施浴、上流階層の御殿湯、および江戸庶民の「浮世風呂」等々を経て、現代の温泉や「お風呂」に至るまで、「聖」→「俗」→「遊」の発展過程を示すと同時に、そこには湯浴文化の階層下降現象が見られた。<br>世界中いたるところで見られる蒸風呂と湯風呂は、日本では江戸期に融合して「風呂」と称されるようになったが、日本人独特の風呂趣味は、温泉に恵まれた湿潤で寒暑の変化の激しい風土と、古代日本人の世界観、そして道教や仏教などの思想とによって醸成された「自然遊」(あるがままの自然に遊ぶこと) 感覚によって特徴づけられる。それらの契機は、長い歴史を経て融合し、世俗化・卑俗化すると同時に、身体化、即ち、無意識のレベルにおける「かくれた形」として定着し、湯浴を日常のあたりまえの習慣につくりあげた。即ち、世俗化したわが国の「湯浴」(あの世とこの世の中間に遊び、ふわっとなる、「自然になる」という感覚様式) 文化の基底には、「人間と自然の帰一」という文化原理 (エイドス) と「いのちの再生」という価値原理 (エトス) がある、ということができる。

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