- 著者
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定延 利之
- 出版者
- 一般社団法人 言語処理学会
- 雑誌
- 自然言語処理 (ISSN:13407619)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.3, pp.3-15, 2007
「話し手は, 迅速で正確な情報伝達や, 円滑な人間関係の構築といつた目的を果たすために, 言語を使って自分の感情・評価・態度を表す」という考えは, 言語の研究においてしばしば自明視され, 議論の前提とされる.本稿は, 話し手の言語行動に関するこの一見常識的な考え (「表す」構図) が, 日常の音声コミュニケーションにおける話し手の実態をうまくとらえられない場合があることを示し, それに代わる新しい構図 (「する」構図) を提案するものである.<BR>現代日本語の日常会話の音声の記録と, 現代日本語の母語話者の内観を用いた観察の結果, 「表す」構図が以下3点の問題点をはらむことを明らかにする: (i) 目的論的性格を持ち, 目的を伴わない発話を収容できない; (ii) 外部からの観察に基づいており, 当事者 (話し手) のきもちに肉薄し得ない; (iii) モノ的な言語観に立ち, 言語を行動と見ることができない.<BR>中心的に扱われるのは, あからさまに儀礼的なフイラー, つっかえ方, りきみである.「話し手は自分のきもちに応じて, ブイラー・つっかえ方.声質を使い分けている」という「表す」考えが一見正しく思えるが, 実はどのような限界を持つのかを, 実際のコミュニケーションから具体的に示す.