著者
宮本 泰 佐藤 直行 三浦 馨 柳沢 謙
出版者
Japan Antibiotics Research Association
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.7, no.7, pp.246-250, 1954

先に細谷1) らは, 本邦の土壌から分離した放線菌の1株H-365株が, 抗菌スペクトル並びに動物に対する低い毒性などの点でStreptomycin (SM) に類似の性質を示す新抗生物質を産生することを見出し, この株が<I>Streptomyces reticule</I>に属することから, この物質をReticulinと命名した。後に, BENEDICT2) らはscreeningの途上でやはり日本 (千葉県) において採取された土壌の2っの別々のサンプルから得られた2株が, SM類似の抗生物質を産生することを見出したが, この株は従来SM産生株として知られている<I>S. griseus</I>及び<I>S. bikiniensis</I>とは異なる新種で, 彼らはこれを<I>S. griseocarneus</I>と命名し, その有効産生物質はHydroxystreptomycinであることを指摘した。<BR>細谷3) らはその後, screeningを継続して2,000種以上の分離放線菌の中から, グラム陽性及びグラム陰性菌に有効な抗生物質産生株100株余を分離したが, その中からreticulin産生株として5株を得て, このものの生物学的性状, 有効物質の精製などを研究し, 得られたreticulinを用いてモルモットに於ける実験的結核症に対する治療実験をおこない, 著るしい効果が見られたことを報告4)した。更に, 細谷5) らは, <I>S. reticule</I>とBENEDICTらの得た<I>S. griseocarneus</I>との異同並びにそれらの産生物質であるreticulinとhydroxystreptonlycinとの異同を詳細に研究し, これらの産生株は分類学的に異なるものであること, 並びにreticulinとhydroxystreptomycinとは化学的に同一物質であることを結論するに至つた。<BR>著者らは, 1951年から1952年にかけて, 当時細谷から依頼を受けたreticulinのサンプルを用いて, モルモットの実験的結核症に対して長期の治療実験をおこない, 遠隔治療成績をも含めて, 同時に治療対照として用いたSMと同程度の著るしい成績を認め, 昭和27年6月文部省綜合研究結核研究委員会化学療法研究科会に報告した。その時の実験では, 当時までに発見された主な抗結核剤, 即ちPAS及びTB1をも同時に最終的に比較をおこなう目的の下に, 遠隔成績の観察をも兼ねて多数の動物群を編成したが, 不運にも溶血連鎖球菌による肺炎の流行に遭遇し, 実験動物の多数が罹患, 或いは斃死するに至り, 殊に治療中止後の遠隔成績を見るための残存動物群における混合感染が甚だしく, 実験成績の正確な批判に少なからず支障を来たした。以上の事実並びに膨大な成績表のために適当な誌上発表の機会を失したが, 今回, reticulin治療群とSM治療群の部分だけを他から切りはなして, 対照群との比較成績を, ここに報告する次第である。幸い, この両治療群のみは治療中の実験群のうちでも溶血連鎖球菌の汚染をうけた個体が少なかつた。治療中止後の観察群は大部分が混合感染をうけた。混合感染の有無は剖検表の備考欄に記載してあるから成績の判読に際して参照されたい。治療実験に入るに先立ち, reticulinの結核菌に対する発育抑制効果をSMのそれと比較した成績を示した。

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