- 著者
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荒木 奈緒
- 出版者
- 一般社団法人 日本助産学会
- 雑誌
- 日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.1, pp.89-98, 2006
- 被引用文献数
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目 的<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦はどのようなプロセスを辿って意思決定をするのか,その際の意思決定プロセスには一般的な意思決定プロセスとの差異があるのかを知ることにより,どのような援助が意思決定を行う妊婦の支援となるのかを明らかにすることを目的とする。<br>対象と方法<br>対象は,研究参加の同意が得られ,今回の妊娠において羊水検査を受けるか否かを検討した体験を持つ妊婦5名。データ収集には半構造化面接法を用い,妊娠26週~30週の時期の1時点で実施した。得られたデータは面接内容を逐語録としてデータ化した後,内容を質的帰納的に分析した。<br>結 果<br>羊水検査を受けるか否かを決定する際の妊婦の意思決定プロセスを構成するカテゴリーは,≪妊娠の継続を自分に問う≫≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫≪周囲の意見との照らし合わせ≫≪障害児育児を想像する≫の4つのカテゴリーが抽出された。意思決定プロセスの起点は,≪妊娠の継続を自分に問う≫という形で命に関する自己の価値観を明確化し妊娠の継続を検討することであった。このカテゴリーを起点とし≪人工妊娠中絶に対する思いを自問する≫ことによって自分の人工妊娠中絶に対する考え方を確認し,自分の価値観が周囲の身近な社会で受け入れられるのかを≪周囲の意見との照らし合わせ≫ で十分に観察し,障害という視点から≪障害児育児を想像する≫し,育児の可能性を測った上で,検査を受けるか否かの最終意思決定を行うというプロセスが見出された。<br>このプロセス中で羊水検査を受けた妊婦には,胎児に感じる愛着と五体満足でなければいけないという価値観との間で「揺れ」を感じ,検査結果がでるまで妊娠継続に関する決定を保留とし,検査を受ける決定を行なう過程が存在した。<br>結 論<br>羊水検査を受けるか否かを検討する妊婦は,検査結果による妊娠の継続に関することを最初に問題認識し検査を受けるか否かの検討を行なっていた。このプロセスの中で妊婦は,妊娠の継続から導き出された命の価値観と,胎児に対する感情や障害児育児に対する感情が相反した場合に「揺れ」を感じていた。特に検査結果で異常が指摘された場合に,人工妊娠中絶を受けることを考えている妊婦は,心理的重圧という問題を抱えており細心の配慮が必要である。