著者
渡会 昌広 林 謙司 柳田 俊次
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0148, 2004

【目的】<BR>変形性膝関節症症例では足部・下腿の矢状面上回転運動が正常歩行と比較して,立脚相初期の回転運動が減少し,障害の一因となりうることを報告した(2002,日本理学療法学術大会).歩行における回転運動とは,足部・下腿の矢状面上での回転運動で,踵を中心とする回転運動(Heel Rocker:HR),足関節を中心とする回転運動(Ankle Rocker:AR),前足部を中心とする回転運動(Forefoot Rocker:FR),の機能的な連鎖運動をいう(Perry,1992).この回転軸による運動が停滞したり,運動連鎖が破綻したりすることで異常運動が生じ,支持性の低下や速度の減少といった歩行障害の原因となることが考えられる.本研究では,代表的な歩行障害例である片麻痺症例の歩行分析を行うことで,歩行障害に共通した歩行異常を指摘し,歩行分析・観察の着目点を探ることを目的とした.<BR>【対象と方法】<BR>被験者は変形性膝関節症患者2名,右片麻痺症例2名とした.比較する正常歩行例として,下肢に特に既往のない健常成人2名を選んだ.測定課題は自由速度による裸足歩行とし,側方から矢状面上の下肢の運動をデジタルカメラにより撮影した.あらかじめ下肢各標点(腓骨頭:F,外果:LM,踵骨隆起:C,第5中足骨底:M5,第5趾末節骨:DP5)にマーカを貼付し,立脚相のLM―C間線分の水平線とのなす角度(HR角),F―LM間線分とLM―M5間線分とのなす角度(AR角),LM―M5間線分とM5―DP5間線分とのなす角度(FR角)の時間的変化を計測した.デジタルビデオで撮影した映像をPCに取り込み,Scion Image(画像解析ソフト,Scion corporation)を使用して角度の測定を行った.<BR>【結果】<BR>歩行立脚相において,健常者ではHR角,AR角,FR角という順序で連鎖的に回転運動見られた.一方,変形性膝関節症症例と片麻痺症例では共通した特徴として次の2点がみられた.<BR>(1)踵接地後のHR角の回転運動が減少していた.(すなわち全足底接地に近い状態で接地している)<BR>(2)踵接地後からAR角が大きく,回転運動の減少がみられた.(すなわち下腿が直立し,膝屈曲位の状態で接地している)<BR>【考察】<BR>支持性と推進性を同時に獲得すべき立脚相初期において,回転運動の減少は推進性を阻害する.しかし疼痛や麻痺といった障害を有する場合,支持性の獲得を優先させるための方略を取る.全足底接地と膝屈曲位での接地はその結果であることが推測される.しかし,膝屈曲位での接地は関節の力学的支持性の低下を招くと推察される.今回の結果でも,星野ら(2001)が報告した加齢に伴う回転運動の減少と同様の変化がみられ,加齢や障害に伴う異常運動が歩行の推進性や支持性の低下に影響を与えていると示唆される.

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