著者
佐久間 敏 宮下 有紀子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0768-A0768, 2004

【はじめに】第38回学術大会にて,片麻痺患者の立ち上がり動作は,動作前の坐位姿勢における坐骨と軟部組織のアライメントが重要であるという報告をした。坐骨が軟部組織上を麻痺側へスライドしている時は立ち上がりにくく,健側へスライドしている時は立ち上がりやすいという結果を得た。そこで今回は,坐骨が麻痺側へスライドしている片麻痺患者(以下崩れ群)と健側へスライドしている片麻痺患者(以下修正群)の比較を,立ち上がり動作時の下肢機能に着目し,床反力データを分析したので報告する。<BR>【対象】片麻痺患者16名。端坐位保持が可能。健側膝伸展筋力MMT4以上。麻痺側下肢Br.Stage2~4。また痴呆を伴わない測定内容が理解可能なものを選出した。<BR>【方法】坐面にはガラス板を用い,ガラス越しに支持面の状態測定を行った。そして坐骨と軟部組織のアライメントを第38回学術大会にて我々が報告した方法により計測し,崩れ群と修正群に分類した。次に足部の位置を中足骨が膝蓋骨の真下になる位置かつ肩幅位置になるようにセットし,健側前方に位置させた横手すりで,立ち上がり動作を行わせた。測定機器は床反力計3枚(アニマ社製MG-100)を用い,サンプリング周波数60Hzで,右下肢・左下肢・坐面の情報が得られるようにセットした。分析するパラメータは,殿部から足部への重心移動の制動機能に着目するため,離殿する瞬間の床反力Fy(前後方向)成分のデータを抽出した。そして崩れ群と修正群の2群間において,Fyの平均値の差をt検定によって比較した。<BR>【結果】崩れ群と修正群の分類結果は,崩れ群が6名,修正群が10名だった。立ち上がり動作時の床反力Fy成分のデータは以下のような結果となった。健側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が62.4N(SD=10.1),修正群の平均値が50.3N(SD=25.6)で有意差は得られなかった。一方,麻痺側下肢のFy成分は,崩れ群の平均値が23.9N(SD=11.4),修正群の平均値が0.17N(SD=11.3)で,崩れ群と修正群の間に有意差が認められた(p<0.005)。<BR>【考察】健側下肢は,崩れ群・修正群ともに床反力が前方へ傾き,重心を足部へ移動させるための推進機能として働く。麻痺側下肢は,修正群では床反力が真上を向き,麻痺側半身を支える機能として働く。すなわち坐骨を健側へスライドさせている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使える状態にある。一方,崩れ群の麻痺側下肢は床反力が前方へ傾く。しかしこの現象は,麻痺の機能低下を考慮すると,健側下肢が演じている推進機能とは異なり,前のめりにさせる力と解釈すべきである。すなわち坐骨が麻痺側へスライドしてしまっている姿勢は,麻痺側下肢を支持機能として使えない状態にある。以上のことから片麻痺患者に対する坐骨と軟部組織のアライメントの調整は,麻痺側下肢を「使えない足」から「支持するための足」に機能回復させるという結果を得るための重要な過程であると考える。

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