- 著者
-
佐久間 敏
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.A0449, 2005 (Released:2005-04-27)
【はじめに】第38回・39回学術大会にて,「片麻痺患者では,坐骨が軟部組織上を健側へスライドしている坐位姿勢の方が,麻痺側下肢の機能が発揮しやすく立ち上がりやすい」という報告をした.そこで今回は,坐骨をスライドさせる手段を考案し,その効果を分析した.坐骨をスライドさせる手段としては,座面に左右の傾斜をつけるという方法を考案した.その効果としては,体幹の立ち直り反応に着目して分析を行った.【対象】健常成人31名(男性9名,女性22名),平均年齢36.4±11.0歳とした.【方法】右側が高くなるように6度の傾斜をつけた座面(以下左傾斜座面)に,足底非接地の端座位を上肢の支えをさせることなく,10分間保持させた.その後,左傾斜座面に座ったままの状態で,次の二つの課題を施行させた.課題1:左側殿部へ荷重をかけさせた.課題2:右側殿部へ荷重をかけさせた.続けて,傾斜をつけた座面を水平に戻し(以下水平座面),同様の二つの課題を施行させた.被検者の両側上前腸骨棘・両側肩峰の合計4箇所にマーカーを貼付し,前方にデジタルビデオカメラを設置して,前額面上の映像を記録した.記録した映像をPC上に取り込んで,両側上前腸骨棘を結んだライン(以下骨盤傾斜角度)と両側肩峰を結んだライン(以下体幹傾斜角度)の傾斜角度を計測した.得られたデータから,体幹の立ち直り反応の指標として,骨盤傾斜角度から体幹傾斜角度を引いた値を算出した.課題1施行時の算出値をX,課題2施行時の算出値をYとした.左傾斜座面時と水平座面時の各々において,XとYの平均値の差をt検定で比較した.【結果】左傾斜座面時のXの平均値は7.3±7.4度,Yの平均値は-3.3±8.4度で,有意差が認められた(p<0.01).水平座面時のXの平均値は5.7±8.0度,Yの平均値は3.8±7.9度で,有意差は認められなかった.【考察】左傾斜座面で左側殿部へ荷重をかけた時は,体幹が非荷重側に曲がるという傾向を示した.一方,左傾斜座面で右側殿部へ荷重をかけた時は,体幹が荷重側に曲がるという傾向を示した.すなわち,軟部組織上を坐骨がスライドしている方向への荷重は体幹の立ち直り反応が誘発されやすく,それとは反対方向への荷重では立ち直り反応が出現しにくいという結果となった.この結果から,座面に左右の傾斜をつけて,坐骨がスライドしている状態を準備しておくことは,体幹の立ち直り反応の促通に有効であるということが示唆された.しかし,対象者が健常成人の場合,左右の傾斜をつけた座面に端座位保持を10分間行わせるという手段では,体幹の立ち直り反応の促通が学習されるという効果までは得られなかった.今後,学習効果の得られる対象や施行時間などの検討を行っていきたい.