著者
田中 正則 竹下 明伸 清水 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1564, 2009

【目的】カリキュラムの大綱化に伴い最終学年で実施される長期臨床実習の到達目標は、臨床家としての即戦力養成から基本的な理学療法が行える能力を備えていることに変化した.一方、一部養成校・教員は国家試験を現実的到達目標と認識しているのか、臨床実習を軽視して養成校の合格率を高めるための国家試験対策が、養成校の行事として最終学年の重要な時期で展開されている.我々は、臨床実習とその後の学内教育ではリテラシー教育を重視することが卒業後の臨床には必要と考え、国家試験対策は副次的問題と考える立場にいる.そこで、臨床実習で経験した知識や学習方略が国家試験の得点にどのような影響を及ぼしているかの検討を始めるにあたり、臨床実習成績と国家試験成績との関係とを調査し、検討した.<BR>【方法】対象学生は旧国立病院機構立の3年制専門学校に在籍し、3年次10週間2施設における長期臨床実習の単位取得後に国家試験を受験した39名(第42回国家試験19名、第43回国家試験20名).長期臨床実習の評定は100点満点で、実習指導者が優・良・可・不可と判定した結果をそれぞれ80点・70点・60点・50点と点数化したものを8割とし、残りの2割を実習後に学内で行われる2週間のセミナーの参加態度や症例報告会での発表内容を6名の教員が採点した平均を加えて算出した.臨床実習終了後にカリキュラム上の卒業論文作成や卒業試験等はなく、5名ずつの小グループに分けた自己学習により国家試験受験対策を行った.また学生全員参加の業者模試を1回実施した.国家試験の自己採点は試験終了翌日に模擬試験実施業者の解答速報を参考とし、学生が自己採点を実施した.その際、結果をいずれ公表することを説明し、同意を求めた.臨床実習各期の評点と国家試験自己採点との関係をスピアマンの順位相関係数で求めた.<BR>【結果】国家試験合格率は2年間100%であった.また臨床実習成績と国家試験自己採点の間には相関係数0.4以上の有意な正の相関関係が認められた.<BR>【考察】永尾らによれば臨床実習指導者は、学生の合否基準を判定する際に認知領域よりは、問題意識を持って実習課題を解決しようとする学習態度などの情意領域を重要視していることを挙げている.このため実習成績との相関は思ったほど高くない.国家試験の出題傾向は断片的な知識の確認問題から次第に文章問題、画像やイラストを用いて豊富な医学的情報を提示してそれを使いこなせるリテラシー能力を求める問題へとシフトしてきていると思われる.そのため、学生が多くの医学的情報をどのように処理して治療プログラムを実践したのか、臨床実習でのリテラシー能力に関する合否判定基準を明確にして行動目標と到達レベルを明らかにすることが必要であろう.また、臨床実習での経験を軽視した国家試験対策は、大きな問題があると考えた.

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