著者
渡邊 紀子 平井 達也 宮本 浩秀 千鳥 司浩 下野 俊哉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3009-A4P3009, 2010

【目的】変形性膝関節症(膝OA)は,膝機能低下の影響により日常生活動作の遂行に支障をきたしやすい.日常生活動作を適切に遂行するには,調整能力が重要であるが,膝OAでは最大筋出力の検討が多く調整能力についての知見は少ない.調整能力の評価方法の1つにグレーディングという概念がある.グレーディングとは自己の出力強度を主観によって調整する能力をいう.本研究の目的は,膝OA患者の膝伸展グレーディング能力を検討するために健常高齢者と比較することである.<BR>【方法】対象は,健常高齢者10名(健常群),平均74.0±2.6歳,変形性膝関節症と診断された高齢者7名(膝OA群),平均76.7±5.7歳で腰野の分類にてグレード1~3,FTAは179±2.7°で,すべて女性とし,認知症状のない者(HDS‐R25点以上)とした.尚,両群に年齢の有意差はなかった.方法は,OG技研社製アイソフォースGT‐300を使用し等尺性膝伸展出力を測定した.測定肢位は端座位膝関節90°屈曲位とし,測定下肢は,健常群ではランダムに決め,膝OA群では患側とした.本実験では,100%(最大出力)を測定後,グレーディングを測定した.順序は100%に対し,A:40%→80%→20%→60%,B:60%→20%→80%→40%をA-B-A,B-A-Bの2パターンを対象者ごとにランダムに割り当てた.測定は,検者の合図により出力を開始し,指示された目標値になったと思うところで対象者に合図をさせた.実験中の痛みの強さに対して,実験後,VASを用い評価した.データは,合図の時点での出力データを採用し,3回の平均値を代表値とした.データ処理は,対象者ごとに各目標値に対する割合をグレーディング値(G値:%),各目標値とG値の絶対誤差(誤差:%),G値の変動係数(CV)を算出した.統計学的分析は,1)G値,2)誤差,3)CVについて,対象者(健常群・膝OA群)と目標値(20,40,60,80%)を要因とした混合2要因分散分析を行った.事後検定は単純主効果の検定及び多重比較を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】対象者には,倫理的配慮と上記研究内容を口頭で説明し,同意を得た.<BR>【結果】G値(平均)は,健常群/OA群の順で,目標値20%:29.2/39.2,40%:36.3/49.1,60%:42.1/61.3,80%:49.1/65.1であった.分散分析の結果は,1)G値:対象者要因(F(1,15)=2.302,n.s)に有意な主効果は認められず,目標値要因(F(1,15)=28.468,p<.001)に有意な主効果が認められ,また有意な交互作用(F(1,15)=1.115,n.s)は認められなかった.目標値要因の主効果における多重比較では,目標値20%に対し40%,60%,80%に,40%に対し60%,80%に有意差が認められた.2)誤差:対象者要因(F(1,15)=0.033,n.s)と目標値要因(F(1,15)=1.857,n.s)において有意な主効果は認められず,また有意な交互作用(F(1,15)=0.778,n.s)も認められなかった.3)CV:対象者要因(F(1,15)=9.508,p<.01)と目標値要因(F(1,15)=4.234,p<.05)に有意な主効果が認められ,また有意な交互作用(F(1,15)=5.429,p<.01)も認められた.目標値要因の主効果における多重比較では,20%に対し60%,80%で有意差が認められた.交互作用における単純主効果の結果, 20%と40%の対象者要因に単純主効果が認められ,膝OA群の目標値要因で単純主効果が認められた.膝OA群の目標値要因の単純主効果に続く多重比較では,20%に対して40%と60%に有意差が認められた.尚,本実験中のVASは全対象者0であった.<BR>【考察】健常群と膝OA群を比較した結果,G値に差はなく,誤差での比較も差は認められなかった.しかし,CVについては,20%と40%で健常群より膝OA群の方に変動が大きく,また,膝OA群において出力量の違いで変動が大きくなることが示唆された.一般に,膝OAでは,関節位置覚の低下や筋収縮の遅延をまねくとされ,これらの要因が,グレーディング時の変動に影響を与えた可能性が考えられた.また,罹患年数や変形程度の影響なども考えられるため,今後,膝OA群の対象者数を増やし,さらに検討する必要がある. <BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法評価は,最大筋力などで表すような,量的な評価を指標にしたものが多いが,グレーディングのような質的評価も加えて,運動器疾患の運動機能を捉えることは重要であると考えられる.

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