著者
及川 龍彦 長野 由紀江 松村 一 佐藤 益文 内記 明信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3221, 2010

【目的】<BR> 本学は創立後30年を経過する3年制養成校であるが、これまで、初年度における臨床教育は医療機関を中心とした理学療法業務の見学が主体であった。近年、本学では入学者の気質変化から臨床見学実習(以下、実習)が主体的内容から受身型へ変容し、実習後の学内教育へ反映する事が困難となってきた。このことから本学では従来型実習からの脱却を目的に学生の課題に重点をおく課題指向型実習を本年度より実施している。本報告の目的は課題指向型に移行した実習効果を明らかにし、本学の取り組みを紹介することにある。<BR>【方法】<BR> 対象は本年度実習を経験した1学年42名(男性17名、女性25名、平均年齢19.0±1.2歳)である。実習前後に介護保険その他に関する知識、実習の内容、理学療法士(以下、PT)の印象などに関するアンケートを実施、結果並びに実習成績について検討を行った。課題指向型実習は時期を8月中旬、介護保険施設並びに通所リハビリテーション開設医療機関(以下、介護保険施設等)に特化して実施した。従来の業務見学に併せ、対象者の生活把握を目的とした「ケース報告書」の作成を課した。「ケース報告書」は対象者生活の聞き取り調査から、その問題点を導き出すことを目的としている。その他、日々の不明点を学習する「自己学習ノート」や実習日誌である「デイリーノート」作成を併せて課題とした。また、入学後、実習までの期間が短い事からカリキュラム外での学生介入を行い、学習面、生活面のフォローを行った。事前介入では前社会人としての姿勢育成を目的に一般常識や一般教養の習得を行うモーニングセミナー、「ケース報告書」作成能力習得を目的としたpaper patient、simulation patientを行う「生活評価実習」を実施した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本報告に関する十分な説明を行い、個人が特定できない範囲での情報使用について承諾を得た。<BR>【結果】<BR> 実習終了後の総合評価A判定は学生自己評価(以下、自己評価)1名に対し、臨床実習指導者(以下、SV)評価が13名、B判定自己評価34名に対し、SV評価25名、C判定自己評価7名に対しSV評価4名と学生自己評価に比較してSV評価が高い傾向が認められた。また、事前アンケートでは85.7%が医療機関外でのPT業務を見学していなかった。これに伴い、実習前の介護保険施設等への理解は乏しかったものの、終了後では概ね理解が深まった傾向が認められた。また、実習前では当初57.1%の学生がコミュニケーション能力習得を実習の主眼としたが、終了後ではこの他に対象者の生活が理解できたという回答が増加した。PTに対する印象では前後共通して多くの学生が知識・技術、対象者改善への努力と答えたが、開始前に5名が回答した「かっこいい」は1名へ減少した。<BR>【考察】<BR> 本学の実習制度変更は理学療法への効果的動機付け、社会性向上並びに実習後学内教育との効果的連携を目的としている。実習終了時評価が自己評価に比較して高かったことにより、理学療法を学ぶことへの動機付けにつながったものと考えられる。また、アンケート結果から、入学年度の課題指向型実習実施はコミュニケーションの重要性や対象者生活に関する理解が高まり、実習後学内教育への効果的連携に効果を示すものと考えられた。また、実際の理学療法業務に接することが業務の現実性を認識させ、学習の重要性を感じ取る事によって意欲向上の一旦を担うことが考えられた。しかしながら一方では、社会における未熟さや論理に行動が伴わない面の残存も認められ、実習体験による学習効果が完全に内面化されていない事が考えられ、見かけ上の行動変容に止まっている可能性が示唆された。このことは実習後の行動変容評価の必要性が考えられ、これを用いることにより、次学年以降の学内・臨床教育の効果をさらに高めるものと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本報告は臨床教育と学内教育の効果的相互作用、連携を考察する上で一助となることが考えられる。

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