著者
田島 泰裕 荻無里 亜希 山室 慎太郎 高橋 友明 石垣 範雄 畑 幸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100390, 2013

【はじめに、目的】 われわれは,以前,肩甲骨位置異常を呈する腱板断裂症例の特徴として,正常例よりも1)断裂サイズが大きい,2)運動時痛が強い,3)関節可動域制限(屈曲,外転,下垂位外旋,90°外転位外・内旋および水平伸展)が大きい,4)僧帽筋の上部線維は過活動し,下部線維は活動低下していることを報告した. 今回,術前の肩甲骨位置異常が術後の肩関節機能に影響を与えるのかどうかを明らかにする目的で調査したので報告する.【方法】 腱板断裂と診断され,手術的治療を施行された41例41肩を対象とした.その中から術前に安静座位で脊椎から下角までの距離(以下,SSD)の健患差が1cm以上差を認めた19例(以下,位置異常群)と,1cm未満の22例(以下,正常群)の2群に分類した.2群間で性別,年齢,罹患側,罹病期間,断裂サイズ,術後1年時の運動時痛,術後1年時の肩関節可動域(屈曲,伸展,外転,下垂位外旋,90°外転位外・内旋,水平屈曲および水平伸展),術後1年時の棘上筋テスト,肩関節疾患治療成績判定基準(以下,JOAスコア)および術後1年時の僧帽筋の筋電図所見の10項目について比較検討した.なお,筋電図測定は僧帽筋上部・中部および下部線維を測定筋とし,各筋線維の肩甲骨最大内転運動時での%iEMGを算出した.統計学的解析は性別,年齢および罹患側にはχ2検定を,罹病期間,断裂サイズ,術後1年時の運動時痛,術後1年時の肩関節可動域,術後1年時の棘上筋テスト,術後1年時のJOAスコアおよび術後1年時の僧帽筋の筋電図所見にはMann-Whitney's U test用いて行い,有意差5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨をすべての対象者に説明し,同意を得た.【結果】 性別,年齢,罹患側,受傷原因および罹病期間においては2群間で有意差を認めなかった.断裂サイズは位置異常群が平均3.4cm,正常群が平均1.9cmで,前者が後者より有意に大きかった(p<0.05).運動時痛は位置異常群平均2.9cm,正常群が平均0.7cmで,前者が後者より有意に強かった(p<0.05).可動域に関して,90°外転位内旋において位置異常群11.1°,正常群24.6°であり有意に制限されていた(p<0.05).その他の方向においては2群間で有意差を認めなかった.棘上筋テストにおいて陽性例は位置異常群10例,正常群4例で前者が後者より有意に多かった.JOAスコアにおいては2群間で有意差を認めなかった.%iEMGに関して,上部線維は位置異常群が正常群より有意に過活動となっていた(p<0.05).中部線維と下部線維においては2群間で有意差を認めなかった.【考察】 今回の結果から,術後1年の時点で位置異常群が正常群と異なるのは以下の点であった. 1)90°外転位内旋方向の可動域制限を認める症例が多い.元脇らは90°外転位内旋運動の代償として,肩甲骨の前傾と内旋と外方傾斜が著明となり肩甲骨下角と内側縁の浮き上がりが認められると報告しており,古谷らは90°外転位内旋が小さいほど,肩甲骨の拳上で代償すると報告している.すなわち90°外転位内旋の制限が肩甲骨位置異常の原因であると思われた. 2)断裂サイズが大きい.3)棘上筋テスト陽性例が多い.小林らは断裂サイズが大きいと修復腱板の回復が遅れると述べている.このことは腱板の機能不全が残存することを意味し,棘上筋腱テスト陽性例が多かった理由となると考えた. 3)棘上筋テスト陽性例が多い.4)運動時痛を訴える症例が多い.5)僧帽筋上部線維の過活動森原らは,腱板機能を代償するために外在筋である三角筋、僧帽筋、肩甲挙筋が過剰に緊張し、これらの肩甲骨周囲筋に運動時痛が起こることも多いと報告している.これは前述のように腱板機能不全が残存すると,三角筋や肩甲挙筋とともに僧帽筋上部線維にも過活動が起こり,運動時痛が引き起こされるのではないかと思われた. 以上のことから,術前の肩甲骨位置異常は術後の肩関節機能に影響することが分かった.【理学療法学研究としての意義】 術前の肩甲骨位置異常は,術後に肩関節内旋制限,運動時痛および僧帽筋上部線維の過活動を生じる可能性が高いことが分かった.これらのことから,術前の肩甲骨位置異常は軽視すべきではなく,術前理学療法や後療法において考慮すべき重要な所見であると考える.

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術前の肩甲骨位置異常が術後の肩関節機能に与える影響 ✅術前の肩甲骨位置異常は,術後に肩関節内旋制限,運動時痛および僧帽筋上部線維の過活動を生じる可能性が高い https://t.co/VCkZHm0lnM #CiNii

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