著者
新谷 大輔 平田 康洋 磯田 幸一郎 谷口 直也 小嶋 瑞穂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100437, 2013

【はじめに、目的】わが国では、2007年に高齢化率21.5%となり超高齢社会に突入した。当院周辺の高齢化率は34.3%と高く、2025年の予測高齢化率と等しい状況である。回復期リハビリテーション病棟(以下回復期)入棟患者の現状を後方視的に調査・分析した。【方法】当院で平成23年1月から12月までに回復期退棟患者189名をA群、平成24年1月から10月までに回復期退棟患者164名をB群とした。このうち、死亡、PEGなどの処置による転棟の患者、再入棟患者(A群21名、B群11名)は対象から除外した。カルテデータより(1)年齢(2)性別(3)疾患名(4)脳卒中比率(5)在院日数(6)入棟日数(7)入棟まで日数(8)重症者数(9)重症者改善率(10)入棟時FIM(11)退棟時FIM(12)FIM利得(13)自宅復帰率(14)在宅復帰率について後方視的に調査した。【倫理的配慮、説明と同意】電子カルテよりデータを抽出したが、個人が特定できる形では公表しないことを遵守した。データの解析は外部との通信が行えない電子カルテ端末で処理し、研究者以外がアクセスできないようにセキュリティーをかけアクセス権を制限した。【結果】各項目の平均(A群、B群)を示す。年齢(79.3、77.5)性別(男68女100、男68女85)疾患名(脳卒中95整形72廃用1、脳卒中88整形61廃用5)脳卒中比率(0.57、0.57)在院日数(85.5、74.7)入棟日数(72.8、62.4)入棟まで日数(12.8、12.3)重症者数(50、50)重症者改善率(30、33)入棟時FIM(58.8、62.1)退棟時FIM(87.3、95.3)FIM利得(28.6、32.8)自宅復帰率(0.82、0.82)在宅復帰率(0.87、0.87)であった。このうち対応のないt検定で有意差を認めた項目は(P値)、在院日数(0.009425)入棟日数(0.008201)退棟時FIM(0.024735)FIM利得(0.045278)であり、年齢(0.110849)入棟まで日数(0.333104)入棟時FIM(0.152942)は有意差を認めなかった。【考察】年齢は全国平均75.1歳に比べると高く、最高年齢は102歳であった。入棟日数はB群では62日台と大幅に短縮され全国平均72.8日より早期の退院が行えている。FIMは全国平均72.6(入棟時)88.4(退棟時)15.8(利得)となっているが、当院では入棟時FIMが低く、退院時FIMが平均に追いつく傾向にあり、そのためFIM利得が高い。これは当院には急性期病棟を有し、回復期入棟まで日数が12日台となっており、急性期治療が終了した患者をリハビリテーションへ速やかに繋げることができていると考えられる。その他、当院では週1回、病床管理会議を全病棟・多職種で開催し、対象患者の確認と入棟時期の決定を行っている。この際に病棟の脳卒中比率(60%以内)、重症者比率(35%以内)を管理しており、入院が長期にわたる可能性の高い脳卒中患者の割合が高くなりすぎていないか管理している。回復期でも週1回入棟患者の現況を確認し、調整の漏れの確認や目標・方針の決定を病棟管理者でおこないスタッフに周知している。また、患者・患者家族・ケアマネージャーを積極的にできるだけ早期にカンファレンスに招く試みを行っている。また、リハビリテーション部として平成23年7月より365日リハ体制導入、平成24年4月より回復期病棟スタッフ増員(7人)により、リハビリテーション提供体制も充実してきている。これらにより、入棟日数と在院日数が短縮し、退院時FIMとFIM利得が改善したと分析した。そして、当地域のような現在高齢過疎地域が直面している問題として、家族の断絶(核家族化)、コミュニティーの崩壊(一人暮らし高齢者)が急速に進んできている。病院とコミュニティーを繋いでくれるケアマネージャーとの連携により高い自宅・在宅復帰率を保つに至っているが、低所得高齢者や自己決定ができない患者が年々増えてきており、地域社会の崩壊が現実問題として迫ってきている。行政との調整により生活保護・居住地保証等の社会資源が求められてきている。病院と地域と行政が一体となり患者を見る時代がそこまで来ている。今後も年間データの変遷と問題点を分析していきたい。【理学療法学研究としての意義】この調査により、高齢化率30%を超えることが避けられない日本の回復期の必要性やあり方を過疎地域の現状を見ることで参考にすることができる。また、今後の医療情勢の議論に役立つことを期待する。

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