- 著者
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木村 圭佑
作 慎一郎
高取 克彦
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, pp.48101144, 2013
【はじめに、目的】日常生活における,歩行や階段昇降は運動学的には片脚立位からのバランス損失と回復の繰り返しといえる.よって片脚立位時の姿勢制御能力の向上は転倒予防のために重要と考えられる.先行研究では片脚立位における前後方向の重心動揺制御への母趾外転筋強化の有効性が報告されている.しかし,その有効性は無作為割り付けの行われた対照群がない設定で実施されていることから,より精度の高い手法での検討が必要と考えられる.また,重心の側方動揺制御には,小趾外転筋の活動が有効だと考えられているが,両者の関係については,十分な調査が行われていない.本研究の目的は,小趾外転筋の筋力強化が片脚立位時における姿勢制御能力に及ぼす影響について明らかにすること,母趾外転筋強化による重心動揺制御効果を無作為化比較試験にて追試することである.【方法】健常成人70名から参加の同意を得られた30名(男性15名,女性15名,平均年齢21.4±1.0歳)の両下肢を対象とした.母趾外転筋のみをトレーニングする群(以下:コントロール群)15名と母趾および小趾外転筋をトレーニングする群(以下:実験群)15名に無作為に振り分けた.両群の参加者特性(年齢・性別・身長・体重・足長・足幅)には有意な差は認められなかった.母趾外転筋トレーニングは第2~5趾を固定させ,最大可動域までの母趾外転運動を行う事とし,小趾外転筋トレーニングは第1~4趾を固定させ,最大可動域までの小趾外転運動を行う事とした.両トレーニングともに左右実施し,1分間できるだけ多く課題を反復させるよう指示した.実験群では両トレーニングを実施させ,コントロール群は母趾外転トレーニングのみを行わせた.トレーニングは両群とも週7日,3週間行った.評価項目は筋力の指標として自動母趾および小趾外転距離の変化と片脚立位バランスおよび安定性限界の変化とした.母趾外転距離の測定では,最大自動外転時の母趾・示趾間の距離を測定した.小趾外転距離の測定においても,小趾・環趾間の距離を測定した.母趾および小趾外転距離は足幅で除して標準化した.足幅は第一中足骨頭内側,第五中足骨頭外側の距離を測定した.片脚立位バランスおよび安定性限界の評価には重心動揺計(アニマ社製)を用いて左右片脚立位30秒間の重心動揺面積および重心最大偏位距離(前後・側方)を測定した.また,両脚支持での立位安定性限界(前後左右への随意的な重心最大移動距離)についても測定を行った.重心動揺の前後距離は足長で,左右距離は足幅で除することで標準化した.足長は踵から足尖間距離を金尺にて測定した.データ解析は,両群におけるトレーニング前後の変化率を対応のないt検定を用いて実施し,有意水準を5%未満に設定した. 【倫理的配慮、説明と同意】被検者には研究の趣旨を説明し,自由意志にて参加の同意を得た.【結果】小趾外転距離はコントロール群に比較して実験群で増加傾向が認められた.片脚立位時の重心動揺面積は右脚において実験群に有意な減少が認められた(p<0.05,効果量 =0.84).また最大重心偏位距離は前後方向で両脚ともに実験群において有意な減少が認められた(p<0.05,右効果量 =1.06)(p<0.05,左効果量=0.87).左右方向では,群間差は認められなかった.立位安定性限界における重心最大距離変化では,両群間に有意差は認められなかったが,全方向において実験群に重心最大移動距離の増加傾向が認められた.【考察】片脚立位時の前後重心動揺が実験群で減少した要因としては,母趾による偏位した重心位置での支持作用と,小趾による偏位した重心を中心に戻す作用に改善が認められたためと考えられる.また,足部は前後方向の動きで重心を安定させており,母趾外転筋には母趾屈曲作用,小趾外転筋には小趾屈曲作用がある.これらの事から,実験群での重心動揺面積の減少は,主に前後最大距離の減少によるものと考えられる.左右最大距離に変化が認められなかった要因として,側方バランス維持には足部内外反を制御する外在筋の役割が重要とされている.従って,側方動揺制御に対し,内在筋の強化のみでは姿勢制御能力の改善には不十分であった可能性が考えられる.立位安定性限界には群間差は認められなかったが,全方向において実験群がコントロール群よりも増加傾向が認められた事から,母趾および小趾外転トレーニングは足趾把持筋力を強化し,動的姿勢制御能の向上を示す可能性があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,小趾外転筋の筋力強化によって姿勢制御能力の向上が認められた.よって,臨床においてよく用いられる足趾把持トレーニングに加え,外転トレーニングを行うことで,転倒リスクの更なる減少に有用だと考えられる.