著者
明﨑 禎輝 野村 卓生 森 耕平 片岡 紳一郎 中俣 恵美 浅田 史成 森 禎章 甲斐 悟
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101832-48101832, 2013

【目的】虚弱高齢者でも実施可能なように福島県喜多方市で開発された「太極拳ゆったり体操」(以下,体操という)は,運動器の機能向上(AGG,2011)や新規の要介護認定の発生を抑制する(日老医会誌,2011)ことが証明されている.しかしながら,4種類ある体操の型(坐位版2種類,立位版2種類)について,呼吸循環系から体操の安全性について検討された報告はない.本研究は,後期高齢者を対象として,体操の安全性を呼吸循環動態から検証することである.【方法】対象は,地域在住高齢者に対する太極拳ゆったり体操プログラムの介護予防効果(UMIN000006991)の臨床研究に参加している70歳以上の3例の女性とした.年齢,BMI,安静時心拍数と血圧は,それぞれ対象1では71歳,29.2kg/m2,73回/分,142/85mmHg,対象2は76歳,21.4kg/m2,77回/分,158/77mmHg,対象3は75歳, 23.5kg/m2,66回/分,157/94mmHg,であった.体操は,坐位での2種類(約11分と6分),立位での2種類(約13分と6分)の4種類である.安全性の検証方法は,椅座位での安静3分後に4種類をランダムに十分な休息時間を設けて1日に2種類ずつ,2日で計4種類を実施した.評価項目:体操前後に血圧,Borg scaleを測定した.また,携帯型呼気ガス分析装置エアロソニックAT-1100(アニマ社)を用い,体操中の呼吸数,心拍数や呼吸商(RQ)を測定した.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭で説明を行い,同意のもとに研究を実施した.本研究は,学内研究倫理委員会で承認を受けた.【結果】対象1:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ82回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.16を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めず,逆に低下する傾向にあった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大25回/分,26回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象2:体操中の最大心拍数は坐位版・立位版でそれぞれ84回/分,93回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大23回/分,23回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ74回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大22回/分,24回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3例の平均RQは坐位版で0.87±0.10,立位版で0.84±0.07,体操のMetsは坐位版で最大2.17Mets,立位版で最大2.83Metsであった.また,体操中の最大Borg scaleは,対象2において立位版で13「ややきつい」であった.【考察】対象3例において,体操実施時の最大心拍数はカルボーネン式のおおよそk=0.2程度であったこと,RQの平均も0.8であったことから,体操の坐位版,立位版ともに脂質代謝優位の有酸素運動であると考えられた.また,Metsからは坐位版ではゆっくりとした歩行,立位版では67m/分での歩行程度の身体活動量(Med Sci Sports Exerc. 2000)であると考えられた.体操後に血圧の上昇は認めず,体操実施中の呼吸回数の大きな増加や変動(呼吸数の減少)を認めなかったことから,バルサルバ様式(息をこらえて止める)を必要としない運動であると考えられた.一方,Borg scaleは対象2において最大で13「ややきつい」を認めたが,これは立位版で下肢筋力の発揮を必要とする運動パターンにおいて認めたものであり,呼吸循環系の自覚的負担を訴えるものではなく,対象3例において適切な負荷量であると考えた.以上を総合して,本体操は後期高齢者にも安全性の高い運動プログラムの一つであると考えられた.【理学療法研究としての意義】体操実施前中後の健常な後期高齢者における呼吸循環動態が明らかとなり,今後,体操を適応する対象を患者へ拡大していく上での基礎資料となる.また,本研究で得られた体操のRQやMetsは,肥満症や動脈硬化性疾患などの生活習慣病予防・改善への効果を検討する上での基礎資料となる.

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