著者
辻 陽子 明﨑 禎輝 勝村 仁美 原 臣博 澤下 佑紀 垣崎 仁志 森 耕平 由利 禄巳 野村 卓生 平尾 文雄
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.38-44, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
参考文献数
41

要旨 本研究では,在院中の統合失調症患者の3 年後の身体機能,抗精神薬投与量,転倒回数の変化を調査することにより,身体機能に対する介入の必要性について検討することである.対象者は統合失調症患者12 名(男性6 名,女性6 名)であった.年齢は64.2±5.6 歳であった.除外規定としては,車椅子レベルの者,精神疾患による認知機能障害により説明の理解が困難な者,脊椎損傷など整形疾患が原因でADL が低下している者とした.調査は2014 年8 月,2017 年9 月にそれぞれ実施した.調査項目はBMI,筋力(30 秒椅子立ち上がりテスト),バランス能力(開眼・閉眼片脚立位時間,Functional reach test,Timed up and go test),柔軟性(長座位体前屈距離),歩行速度(10m最大歩行速度),抗精神薬投与量,転倒回数であった.統計解析はWilcoxon の符号付き順位検定,対応のあるt 検定を用い分析した.結果,30 秒椅子立ち上がりテストは,初回平均17.4±4.5 回から3 年後には平均13.0±4.8 回へと,開脚片脚立位時間は,初回平均 17.0 ±18.0 秒から3 年後には平均7.7±7.1 秒へと有意に低下した (p<0.05).その他の項目に有意差は認められなかった.在院中の統合失調症患者は,3 年間の経過で,特に下肢筋力と静的バランス能力が低下していることが明らかになった.これらから,身体機能の維持・改善への介入が求められる.
著者
明﨑 禎輝 大原 勝義 川上 佳久 野村 卓生 佐藤 厚
出版者
学校法人高知学園 高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.35-38, 2011-03-31 (Released:2018-11-28)
参考文献数
8

本研究では,脳血管障害患者に対して,失敗体験の少ない床からの立ち上がり動作練習を実施し,その有効性を検討した.対象は,60歳男性,診断名は脳梗塞であった.床からの立ち上がり動作は,仰臥位から横座りまでは可能,横座りから片膝立ち位までが困難であった.方法は,シングルケースデザインのAB法を用い,ベースライン期(8日)後に,介入期(5日)を設けた.介入方法としては,横座り時に殿部の下に枕2つ重ねて挿入した状態から片膝立ちまでの練習を繰り返し行い,片膝立ちが可能となれば,枕の数を減らしながら練習を行った.結果,ベースライン期においては,床からの立ち上がり動作は介助が必要であったが,介入3日後には監視レベルへと改善した.これらのことから,本研究で用いた方法は,床からの立ち上がり動作獲得のために有用なものと考えられた.
著者
明﨑 禎輝 野村 卓生 森 耕平 片岡 紳一郎 中俣 恵美 浅田 史成 森 禎章 甲斐 悟
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101832-48101832, 2013

【目的】虚弱高齢者でも実施可能なように福島県喜多方市で開発された「太極拳ゆったり体操」(以下,体操という)は,運動器の機能向上(AGG,2011)や新規の要介護認定の発生を抑制する(日老医会誌,2011)ことが証明されている.しかしながら,4種類ある体操の型(坐位版2種類,立位版2種類)について,呼吸循環系から体操の安全性について検討された報告はない.本研究は,後期高齢者を対象として,体操の安全性を呼吸循環動態から検証することである.【方法】対象は,地域在住高齢者に対する太極拳ゆったり体操プログラムの介護予防効果(UMIN000006991)の臨床研究に参加している70歳以上の3例の女性とした.年齢,BMI,安静時心拍数と血圧は,それぞれ対象1では71歳,29.2kg/m2,73回/分,142/85mmHg,対象2は76歳,21.4kg/m2,77回/分,158/77mmHg,対象3は75歳, 23.5kg/m2,66回/分,157/94mmHg,であった.体操は,坐位での2種類(約11分と6分),立位での2種類(約13分と6分)の4種類である.安全性の検証方法は,椅座位での安静3分後に4種類をランダムに十分な休息時間を設けて1日に2種類ずつ,2日で計4種類を実施した.評価項目:体操前後に血圧,Borg scaleを測定した.また,携帯型呼気ガス分析装置エアロソニックAT-1100(アニマ社)を用い,体操中の呼吸数,心拍数や呼吸商(RQ)を測定した.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭で説明を行い,同意のもとに研究を実施した.本研究は,学内研究倫理委員会で承認を受けた.【結果】対象1:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ82回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.16を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めず,逆に低下する傾向にあった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大25回/分,26回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象2:体操中の最大心拍数は坐位版・立位版でそれぞれ84回/分,93回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大23回/分,23回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3:体操中の最大心拍数は坐位版,立位版でそれぞれ74回/分,85回/分であり,カルボーネン式でいうk=0.24を超えることはなかった.体操後に血圧の上昇は認めなかった.体操中の最大呼吸数は坐位版,立位版で,それぞれ最大22回/分,24回/分であり,安静時から大きく呼吸回数の増加,変動はなかった.対象3例の平均RQは坐位版で0.87±0.10,立位版で0.84±0.07,体操のMetsは坐位版で最大2.17Mets,立位版で最大2.83Metsであった.また,体操中の最大Borg scaleは,対象2において立位版で13「ややきつい」であった.【考察】対象3例において,体操実施時の最大心拍数はカルボーネン式のおおよそk=0.2程度であったこと,RQの平均も0.8であったことから,体操の坐位版,立位版ともに脂質代謝優位の有酸素運動であると考えられた.また,Metsからは坐位版ではゆっくりとした歩行,立位版では67m/分での歩行程度の身体活動量(Med Sci Sports Exerc. 2000)であると考えられた.体操後に血圧の上昇は認めず,体操実施中の呼吸回数の大きな増加や変動(呼吸数の減少)を認めなかったことから,バルサルバ様式(息をこらえて止める)を必要としない運動であると考えられた.一方,Borg scaleは対象2において最大で13「ややきつい」を認めたが,これは立位版で下肢筋力の発揮を必要とする運動パターンにおいて認めたものであり,呼吸循環系の自覚的負担を訴えるものではなく,対象3例において適切な負荷量であると考えた.以上を総合して,本体操は後期高齢者にも安全性の高い運動プログラムの一つであると考えられた.【理学療法研究としての意義】体操実施前中後の健常な後期高齢者における呼吸循環動態が明らかとなり,今後,体操を適応する対象を患者へ拡大していく上での基礎資料となる.また,本研究で得られた体操のRQやMetsは,肥満症や動脈硬化性疾患などの生活習慣病予防・改善への効果を検討する上での基礎資料となる.
著者
吉村 晋 明﨑 禎輝 吉本 好延
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1606, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 麻痺側に重度の機能障害を有する脳血管障害患者は,非麻痺側上肢で杖を用いる場合が多いが,杖なし歩行が可能になれば,日常生活動作中で非麻痺側上肢の使用が可能になるため,身体活動量およびQuality of lifeの向上に繋がる.杖なし歩行の自立度は身体機能・能力因子との関連が深く,中でもバランス能力は歩行自立度を規定する最重要因子であるが,歩行自立度とバランス能力の関連性を数量的に検討した報告は数少ない.本研究は,脳血管障害患者の立位バランス評価として臨床汎用性が高い片脚立位時間に着目し,脳血管障害患者の杖なし歩行の判定に片脚立位時間の測定が有効かどうかについて検討を行った.【対象および方法】 対象は平成16年から19年度に当院リハビリテーション部に理学療法の依頼があった脳血管障害患者113名(男性66名,女性47名,平均年齢67.1歳,発症からの平均期間103.1±65.9日)であり,研究の趣旨を説明し同意を得た者のみを対象とした. 方法は,目的変数として,装具使用の有無に関わらず,杖を用いることなく屋内での歩行が自立している症例を杖なし群,それ以外の症例を杖あり群の2群に分類した.調査項目は,年齢,Body Mass Index (BMI),下肢Brunnstrom stage(下肢Br.Stage),深部感覚障害の有無,両側の下肢筋力および片脚立位時間などの計8項目とし,群間比較の後,ロジスティック解析,Receiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)により解析した. 【結果および考察】 群間比較の結果,杖あり群は杖なし群と比較して,深部感覚障害を有する患者が多く,下肢Br.stage,麻痺側下肢筋力,非麻痺側・麻痺側片脚立位時間は低値を認めた(p<0.01). ロジスティック解析の結果, 杖なし歩行の自立に最も関連する因子として麻痺側片脚立位時間が抽出された(オッズ比1.353).ROC曲線によってカットオフ値を算出した結果, ROC曲線の曲線下面積は,0.934であり, 麻痺側片脚立位時間2.8秒を閾値とした場合,感度85.4%,偽陽性度9.2%,正診率は88.5%,陽性適中率は85.4%であった.本結果から,麻痺側片脚立位時間が2.8秒以上の場合,高率で杖なし歩行が可能であったことから,杖なし歩行自立度を判定する評価方法として片脚立位時間の測定が有効であると考えられた.脳血管障害患者における片脚立位時間の測定利用率は約8割以上と臨床汎用性が高く,共通した評価方法からデータを集積することで,他施設間での比較も可能となり,科学的根拠に基づいた歩行判定基準の一助になるものと考えられた.