- 著者
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玉地 雅浩
佐伯 武士
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, pp.48101941, 2013
【はじめに、目的】姿勢制御は視覚、体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年、これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために、飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。その際に胃の位置や大きさも変化する事を超音波診断装置を用いて確認すると共に、飲水前後で安静椅座位での重心動揺が変化するか否かを重心動揺系を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10 人、平均年齢21.4 歳とした.被験者は実験に先立ち、研究の目的、方法について十分に説明を受けた上で参加した。被験者は前日21 時より絶食状態で、測定開始3 時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中に貯留物が残っていない事を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は、重心動揺計(ユニメック社製JK101 +UM-ART : 測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1 分間の安静座位をとった後、90 秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長、矩形面積、外周面積、単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は、その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。計測は条件一飲水無しと条件二飲水有りにて2 回計測した。条件一飲水無しでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺を計測した。その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間の重心動揺の計測を計4 回行った。条件二飲水有りでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺の測定を行い、その直後の1 分間のインターバル中に60 秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した、その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間で計4 回計測を行った。また計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃が動く事によって位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。統計には、各条件における重心動揺の変化を反復測定による分散分析を用いて、被験者内変数を重心動揺とし、各90 秒間計測区間を因子とし検討した。さらに有意差の認められたものは、多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。条件一、二の各測定区間の比較はt検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、へルシンキ宣言に基づき、事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で、被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】条件二飲水有りにて、飲水直後の90 秒間に総軌跡長、外周面積、単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)条件一と二の比較では飲水直後の90 秒間にて総軌跡長、外周面積、矩形面積、単位軌跡長に条件二に有意な増加が認められた(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前、そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。さらに、飲水直後90 秒間は超音波画像診断装置にて胃内部の微炭酸水の貯留を確認し、内蔵器官への物質の移動が重心動揺に影響を及ぼすことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から、臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前、そして後と継時的に計測することによって、飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。