- 著者
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磯部 作
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2006, pp.7, 2006
近年、「水産業・漁村の多面的機能」が重視され、「交流などの『場』」を利用した体験漁業などが行われている。「水産業・漁村の多面的機能」とは、食糧資源供給に加え、自然環境保全、地域社会形成維持、居住や交流の「場」の提供する役割などがある。漁村は水産業が基本であるが、他産業も存在していることなどのため、「漁村地域」として捉え、その多面的機能も地域性を踏まえることが重要である。 水産業・漁村地域体験は、多面的機能の「交流などの『場』」を利用して、食糧資源供給や、自然環境保全、地域社会形成維持などの役割を体験することであり、それらを有機的に結合することが重要である。 2003年調査の第11次漁業センサスによると、全国の全漁業地区2,177のうち漁業体験が行われた漁業地区は31.2%であり、漁村体験が行われたのは8.0%である。それを都道府県別にみると、千葉県や和歌山県などの大都市周辺や、九州・沖縄などが多い。また、漁業・漁村体験の実施主体は漁協や市町村が多い。 沖縄県は全国でも有数の漁業・漁村体験が行われている。漁業地区でみても、沖縄本島中部の読谷村と恩納村が全国12位にランクされており、沖縄県内各地で水産業・漁村地域体験が行われていて、行政も水産業・漁村地域体験を推進している。沖縄県では、地域の漁業や伝統漁法を活かすとともに、亜熱帯の気候や、サンゴ礁やマングローブなど、地域の環境を活かした水産業・漁村地域体験が行われている。東シナ海に面していて沿岸海域にはサンゴ礁がある読谷村では、水産業・漁村地域体験として、役場と漁協などにより、漁業の中心である大型定置網、サンゴ礁でのアンブシ漁、モズク採り、魚の裁き方、漁具作りなどの体験が行われている。沖縄県では周年にわたって水産業・漁村地域体験をすることが可能であるが、修学旅行は5月や10月などが多い。また、修学旅行でも、小学校は沖縄県内から、中・高は沖縄県外からが多い。 佐賀県鹿島市七浦は漁業体験回数が全国第3位で、地先には有明海の広大な軟泥干潟があり、地区の全戸が加入する「七浦地区振興会」が結成され、300人以上の地区民が出資して会社を作り、干潟体験や、干潟物産館、干潟レストラン、直売市などを経営している。干潟体験は、潟スキーや潟上綱引きなどのミニ・ガタリンピックを行うもので、干潟環境教室なども行われている。2004年度では、九州を中心に、関西などからの小中学生の修学旅行生など15,941人が干潟体験をしていて、1,346万円の売り上げをあげており、直売市やレストラン、物産館などを含めて、全体で約2億円を売り上げている。 水産業・漁村地域体験は、水産業や漁村地域がなければ成り立たない。このため、水産業をはじめとして、漁村地域の環境や風俗・文化などを存続させることがなによりも重要である。また、体験漁業などを行い、体験資源などを解説できる人材の育成も必要である。水産業・漁村地域体験のメニュー開発などにあたっては、地域の自然環境や漁法などの地域性を活かすことが重要であり、漁法や集客の季節性、大都市などからの時間距離なども考慮しなければならない。 水産業・漁村地域体験は、まだ十分とは言えない場合もあるが体験料収入などをもたらし、水産業・漁村地域に付加価値をつけるとともに、体験漁業は少量の漁獲でも成立するため、過度の漁獲努力や乱獲を回避することができるうえ、体験者が地域内に宿泊することなどにより地域振興にも寄与する。さらに、体験者は水産業や漁村地域への理解が深まり、魚食文化の普及などに繋がる。このため、水産業・漁村地域の多面的機能を活用して、水産業・漁村地域体験を行うことは重要で、地域性などを十分考慮した取り組みが求められている。