- 著者
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服部 晃次
鈴木 真由子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.54, pp.105-105, 2011
<BR>【目的】<BR> 家庭科は、自分や家族の過去現在未来の生き方について考える「自分をみつめる」学習の機会が随所にあるという教科特性を持つ。しかし、授業の中でどこまで自己開示を求めるか、生徒たちが抱える問題の個別性やプライバシーへどう配慮するかなど、ある種の「やりにくさ」を感じている教員も少なくないと考える。<BR> そこで本研究では、中学校・高等学校家庭科教員の「自分をみつめる」学習とその中での自己開示への意識を明らかにし、そこに見られる課題を抽出することによって、「自分をみつめる」学習の展開の手がかりとすることを目的とする。<BR>【方法】<BR> 大阪府下の国立、公立、私立の中学校と高等学校731校の家庭科教員を対象に、郵送法による自記式質問紙調査を行った。調査期間は、2011年7~8月、有効回答数は190部、回収率は26.0%であった。調査の主な内容は、①家庭科学習の中で「やりにくい」と感じる内容とその理由について、②「自分をみつめる」学習の実施状況と重要性や配慮事項に関する意識について、③授業での生徒・教師の自己開示についての3点である。<BR>【結果及び考察】<BR> ①家庭科の中で最も「やりにくさ」を感じる内容を聞いたところ、家族(31.1%)、住生活(17.9%)が多かった。主な理由は、「複雑な家庭環境の子どもを傷つけてしまう恐れがある」、「家族の形が多様化している」、「正解不正解が無い」などが挙げられた。それ以外の内容に対する「やりにくさ」の理由についても、類似の記述がみられた。家庭科では、家族・住生活をはじめとする全ての内容について、多様な家庭環境の生徒や個々の問題を抱える生徒へのリスクを教師が感じていることが「やりにくさ」の原因の一つとなっていると推測できる。<BR> ②「自分をみつめる」学習を授業に取り入れている教員は、75.3%であった。実施時期は1学期の導入が多かった。内容は家族や保育が多く、「人生を展望する」、「ライフスタイルを考える」、「人生を振り返る」などの題材で行われていた。授業に取り入れていない教員は、「家庭環境の個人差」「時間数不足」「勉強不足」「道徳や総合でしている」等を理由に挙げていた。また、「自分をみつめる」学習の重要性については、「重要だと思う」「まあまあ重要だと思う」を合わせると96.2%であった。配慮についてはほとんどの教員が必要だとしており、配慮が必要な生徒としては、「父子母子家庭」「施設から通っている」「虐待されていた」等を挙げていた。具体的には、「お父さん」などの言葉を「保護者」と表現するといった教員の言葉遣いに関する配慮や、プリント記入などの時に「書くことを強要しない」、「開示しても良いかどうかを知っておく」等の授業の方法・準備の配慮が挙げられた。<BR> ③授業の中で「生育歴」「現在の家族」「将来」に対する生徒個々の考えをどの様に開示させるべきか、またはさせないべきかについて尋ねた。その結果、「生育歴」「現在の家族」については、約6割の教員が「教員しか見ない」と回答した。「将来」については意見が分かれたが、「授業で発表」が40.6%で最も多く、続いて「匿名にしてプリント配布」が29.1%、「教員しか見ない」が28.0%となった。過去、現在の自分に関しては自己開示させることに対して消極的だが、将来の自分に関して自己開示させることについては積極的な傾向が見られた。また、教員自身の自己開示について尋ねたところ、9割以上の教員がその必要性を認めていた。理由としては、「生き方の参考例の一つになる」「自己開示しにくい生徒に対して方法を示す」「自分ができないことを生徒には求められない」等が挙げられた。しかし、「教員の自己開示が生徒に与える影響が大きい」「教員にもプライバシーがある」など、自己開示の必要性を認めながらも教員自身の自己開示に抵抗を感じる記述があることも、「自分をみつめる」学習の課題の一つであるといえよう。<BR>