- 著者
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仁平 典宏
- 出版者
- 数理社会学会
- 雑誌
- 理論と方法 (ISSN:09131442)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.2, pp.247-268, 2013
社会的に弱い層が災害時により大きな被害を受けるという脆弱性のモデルは,東日本大震災においても妥当するのだろうか.この問いに答えるためには,まず津波災害と原発事故災害とを分けて考える必要がある.津波災害に関しては,高齢者と漁業従事者が多く居住する地域で特に被害は大きかったのかという問いについて,地域間比較の分析を通じて検証を試みる.その上で,モデルから外れた事例として岩手県陸前高田市に注目し,津波や仮設住宅の生活におけるリスクをどう回避してきたのか,その条件は何かということについて調査データをもとに分析する.次に,原発事故災害について検討する.その出発点は,被曝と避難に伴うリスクが高齢者と若者で異なるという事実である.だが,被曝リスクをゼロにすることにこだわる場合,そのリスク構造の差異を適切に扱えない上に,有効な政策的・実践的方向性も示せなくなる.以上を通じて,地域や時期,問題によって,特定の社会的カテゴリーが有する災害に対するリスクが多様な形をとることとその含意について論じる.