著者
仁平 典宏
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.485-499, 2005-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
41
被引用文献数
16 4

ボランティア活動に対しては, 国家や市場がもたらす問題への解決策として肯定的な評価がある一方で, ネオリベラリズム的な社会編成と共振するという観点から批判もある.本稿は, 既存の議論を整理し, ネオリベラリズムと共振しないポイントを理論的に導出することを目的とする.既存の議論における共振問題は, ボランティア活動の拡大が, ネオリベラリズム的再編の作動条件を構成するという条件の水準にあるものと, 再編の帰結に合致してしまうという帰結の水準にあるものとに整理される.条件の水準では, 公的な福祉サービス削減の前提条件とされる問題と, システムに適合的で統治可能な主体の創出のために活用されるという問題が指摘され, 帰結の水準では, 社会的格差の拡大とセキュリティの強化という帰結と一致するという問題が指摘されてきた.本稿では, これらの共振が絶えず生じるわけではなく, それぞれに共振を避けるポイントが存在していることが示され, それが, 共感困難な〈他者〉という, これまでのボランティア論において十分に想定されてこなかった他者存在との関係を巡って存在していることが指摘される.
著者
仁平 典宏
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.175-196, 2015-05-29 (Released:2016-07-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

20世紀後半から進行する福祉国家の再編にともない,社会保障制度は,教育や訓練を通じて雇用可能性を高めることを目指すワークフェアとしての性格を持つようになってきた。このワークフェアは社会的排除を改善するベクトルと悪化させるベクトルを孕む。本稿の目的は,その分岐の条件を,主にイギリスのニューレイバーの「第三の道」の社会政策の検討を通じて,導出することである。 ニューレイバーは,人的資本への社会的投資を通じた社会的包摂政策を掲げ,子どもの貧困や若年失業の改善に取り組んできた。それらは一定の成果を上げたと評価される一方で,批判的社会政策論からは,むしろそれが貧困家庭や脆弱性のある若者に対する抑圧や排除を深刻化させたと批判されている。問題の所在は,第三の道のワークフェアが,社会構造の転換によってではなく,個人のハビトゥスの矯正によって社会的排除に対応するように仕向ける統治性として性格をもっていた点にある。 以上を踏まえて,社会的排除を避ける方向性が,福祉国家レジーム論や生産レジーム論の知見も参照しつつ,教育の内部と外部においてそれぞれ示される。ワークフェアは――教育と同様――成功可能性が確率に委ねられるゲームとしての側面を幾重にも有している。よって社会的排除を回避する掛金は,ワークフェアへの参加/離脱の前提として,無条件で普遍主義的な社会権保障を論理的かつ制度的に先行させることにある。
著者
仁平 典宏
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.175-196, 2015
被引用文献数
1

20世紀後半から進行する福祉国家の再編にともない,社会保障制度は,教育や訓練を通じて雇用可能性を高めることを目指すワークフェアとしての性格を持つようになってきた。このワークフェアは社会的排除を改善するベクトルと悪化させるベクトルを孕む。本稿の目的は,その分岐の条件を,主にイギリスのニューレイバーの「第三の道」の社会政策の検討を通じて,導出することである。<BR> ニューレイバーは,人的資本への社会的投資を通じた社会的包摂政策を掲げ,子どもの貧困や若年失業の改善に取り組んできた。それらは一定の成果を上げたと評価される一方で,批判的社会政策論からは,むしろそれが貧困家庭や脆弱性のある若者に対する抑圧や排除を深刻化させたと批判されている。問題の所在は,第三の道のワークフェアが,社会構造の転換によってではなく,個人のハビトゥスの矯正によって社会的排除に対応するように仕向ける統治性として性格をもっていた点にある。<BR> 以上を踏まえて,社会的排除を避ける方向性が,福祉国家レジーム論や生産レジーム論の知見も参照しつつ,教育の内部と外部においてそれぞれ示される。ワークフェアは――教育と同様――成功可能性が確率に委ねられるゲームとしての側面を幾重にも有している。よって社会的排除を回避する掛金は,ワークフェアへの参加/離脱の前提として,無条件で普遍主義的な社会権保障を論理的かつ制度的に先行させることにある。
著者
仁平 典宏
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.15, pp.69-81, 2002-06-01 (Released:2010-04-21)
参考文献数
33

This paper considers how the rhetoric of personal development has become the dominant framework for evaluating voluntary activities in Japan. Until the 1970s, volunteer activities had carried various meanings. Some saw voluntary work as a social movement and were very sensitive to the social effects of voluntary activities. Once the welfare budget reached a high level and policies to encourage volunteer activities were initiated in the 1970s, the question of identity became more important than social problems, and volunteer activities came to be perceived as a mechanism for character building on the part of volunteers rather than as a mechanism for solving social problems.
著者
仁平 典宏
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.79-94, 2021 (Released:2022-04-30)
参考文献数
22

本論文は,NPOに対し不信の眼差しを向けられているというデータを出発点として,その背景について検討したものである.先行研究から,政治・党派性忌避と偽善忌避という二つの仮説を設定し,JGSS〈2012〉データの二次分析と,新聞記事の計量テキスト分析及び内容分析という手法で,その妥当性を検証した.そのうち政治・党派性忌避の効果は,本分析の範囲では十分に認められなかった.逆に新聞記事分析から見えてきたのは,NPOという語と政治,運動,市民に関する言葉との連関が弱まってきたことである.他方,偽善忌避に関しては,どちらの分析でも支持された.記事分析では,NPOの記事の総数が減る中で不正に関する記事の割合は増えた事が分かり,それがNPOの偽善イメージを強化する恐れがある.不正の背景には新自由主義的な制度環境があり,それを改善することがNPOへの連帯を生み出すことにつながると考えられる.
著者
仁平 典宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.485-499, 2005-09-30
被引用文献数
1 4

ボランティア活動に対しては, 国家や市場がもたらす問題への解決策として肯定的な評価がある一方で, ネオリベラリズム的な社会編成と共振するという観点から批判もある.本稿は, 既存の議論を整理し, ネオリベラリズムと共振しないポイントを理論的に導出することを目的とする.<BR>既存の議論における共振問題は, ボランティア活動の拡大が, ネオリベラリズム的再編の作動条件を構成するという条件の水準にあるものと, 再編の帰結に合致してしまうという帰結の水準にあるものとに整理される.条件の水準では, 公的な福祉サービス削減の前提条件とされる問題と, システムに適合的で統治可能な主体の創出のために活用されるという問題が指摘され, 帰結の水準では, 社会的格差の拡大とセキュリティの強化という帰結と一致するという問題が指摘されてきた.<BR>本稿では, これらの共振が絶えず生じるわけではなく, それぞれに共振を避けるポイントが存在していることが示され, それが, 共感困難な〈他者〉という, これまでのボランティア論において十分に想定されてこなかった他者存在との関係を巡って存在していることが指摘される.
著者
仁平 典宏
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.98-118, 2012

今回,東日本大震災で活動するボランテイアの数は,阪神淡路大震災よりも少なかったことが指摘され,その理由を,政府による市民セクターの抑圧に求める議論が多い.この議論形式は阪神淡路大震災時に作られたものだが,今回,単純にそれを反復するわけにはいかない阪神淡路大震災時が行政の過剰統治によって特徴付けられる開発主義の果てに生じたのに対し,東日本大震災は規制緩和と再分配の放棄によって特徴づけられるネオリベラリズムの果てに生じたものだからだ.ベクトルは逆を向いている.以上を踏まえてボランティアの停滞の背景を考える.阪神淡路大震災のパラダイムでは, ①行政の抑制,及び,② NPOの低い経営力が原因とされるが,実際には, ①行政の損壊と地域の疲弊,及び,②市民セクターの二重構造化と国内NPOの活動基盤の不全という1995年以降に形成された要素が,有力な原因として浮かび上がる.ボランティア・NPOの活性化やそれによる当事者中心の活動は,公的領域の単純な削減ではなく,その適切な補完・支援のもとで実現するものである.ボランティアNPOのポテンシャルは小さな政府を志向する方向ではなく,人々の社会権を普遍主義的な形で公的に保障していく方向に接続していくべきであるそのために,震災の支援活動で社会の亀裂を目の当たりにしてきた市民セクターが果たす役割は小さくないと思われる.
著者
仁平 典宏
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.35, pp.38-47, 2022-08-26 (Released:2023-08-30)
参考文献数
19

In this paper, how the concept of neoliberalism has been accepted in Japan is analyzed, and then the extent to which it fits into Japanese society is examined using data on four issues: economic policy, social policy, governance, and subject. Subsequently, by using articles on education, ways in which the neoliberal concept is used as a comprehensive description of society is examined. Finally, consideration is given to how we should deal with the neoliberal concept.
著者
仁平 典宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本課題の目的は、日本の市民社会組織の「ビジネスライク化」と呼ばれる変化に焦点を当てて、そのメカニズムや諸帰結を明らかにすることである。本年度は、企業や助成団体への聞き取り調査については、コロナウイルスの感染拡大のために調査を断られるなど、十分に進まなかった。その代わりに、市民社会に関する言説分析を進めた。具体的には「NPO」に関する新聞記事のコーパスを用い、計量テキスト分析を行った。ビジネスライク化の仮説では、それらの言葉の強い連関を持つ言葉群が、政治・運動的なものから、経営・事業的なものへと、経年的に変化することが想定されているが、その妥当性をDictionary-based approachとCorrelational approachを併用しつつ検証した。分析の結果、仮説通りのトレンドが見いだされた。具体的には、1990年代から2010年代後半までの間に「運動」「政治」「市民」とコード化される記事は減少したが、「経営」に関する記事の割合は変わらなかった。また経営に関連して「不正」の関係する記事の割合は増加していた。このような変化がNPOに対する人々の不信感につながっている可能性について、計量データの二次分析によって、明らかにした。その知見の一端はNPO学会のシンポジウムで報告した他、論文にまとめ、NPO学会の学会誌である『ノンプロフィット・レビュー』に査読を経て掲載されることになった。その他、前年に実施した「首都圏の市民活動団体に関する調査」の分析結果をNPO学会で報告した。さらに、東日本大震災の市民活動の経年変化に関する分析を日本社会学会で発表し、その知見が収録された共著書が出版された。オリンピックのビジネス化にボランティアが動員されるプロセスの分析を行った論文が収録された共著書も刊行された。
著者
井上 洋一 井上 洋一 仁平 典宏 仁平 典宏 石坂 友司 石坂 友司 浜田 雄介 浜田 雄介
出版者
奈良女子大学スポーツ健康科学コース
雑誌
奈良女子大学スポーツ科学研究 (ISSN 2434-0200) (ISSN:24340200)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-77, 2019-07-03

奈良女子大学生活環境学部心身健康学科スポーツ健康科学コース主催「第6回 奈良女子大学オリンピック・公開シンポジウム「オリンピックとスポーツボランティア」(2018年11月17日(土)14時~16時15分、奈良女子大学G棟101教室)の採録。シンポジスト:仁平典宏(東京大学準教授)「オリンピックボランティアと「物語」の動員ー「やりがい搾取」論を問い直す」、石坂友司(奈良女子大学準教授)「長野オリンピックからみたスポーツ・ボランティア」、浜田雄介(京都産業大学講師)「トライアスロン大会におけるボランティアとは」、コーディネーター:井上洋一(奈良女子大学教授)本報告は,2018年11月17に行われた第6回奈良女子大学オリンピック・公開シンポジウム「オリンピックとスポーツ・ボランティア」(奈良女子大学生活環境学部心身健康学科スポーツ健康科学コース主催,G棟101教室,14時~16時30分)の採録である.オリンピック開催に向けたボランティアの募集に関して,「やりがい搾取」と批判される問題の検証、ボランティアの社会的意義、スポーツ・ボランティアの特殊性とは何かといった切り口から議論を深めた.
著者
宮城 孝 藤賀 雅人 山本 俊哉 仁平 典宏 廣瀬 克哉
出版者
法政大学現代福祉学部現代福祉研究編集委員会
雑誌
現代福祉研究 (ISSN:13463349)
巻号頁・発行日
no.13, pp.99-125, 2013-03

陸前高田地域再生支援研究プロジェクトは、東日本大震災において岩手県で最も甚大な被害にあった陸前高田市において、被災住民自身が地域の再生、生活再建に向けてその課題を話し合い、主体的な取り組みを行うことを支援しつつ、仮設住宅および被災地域におけるコミュニティの形成のあり方を共に模索しながら、今後の復興における地域再生のモデルづくりに寄与することを目的として、今日まで活動を続けている。本プロジェクトは、震災2年目を迎えた被災地において、昨年に引き続き2回目となる市内・外合わせて52の仮設住宅団地の自治会長等へのインタビュー調査を8月に実施しており、本稿は、その調査結果について整理した内容を記したものである。内容としては、①仮設住宅団地における地区別居住状況、②自治会活動とコミュニティ形成の状況、③独居高齢者や高齢者に関する状況と課題、④子どもに関する状況と課題、⑤住環境の問題と対応、⑥住田町の仮設住宅の住環境と居住状況、⑦外部支援団体の関与、⑧住宅再建・復興まちづくりに関する情報・取り組みと意見等である。最後に、これらの調査結果を踏まえて、状況の変化に合わせた復興計画の進捗管理のあり方について論述している。
著者
仁平 典宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.247-268, 2013

社会的に弱い層が災害時により大きな被害を受けるという脆弱性のモデルは,東日本大震災においても妥当するのだろうか.この問いに答えるためには,まず津波災害と原発事故災害とを分けて考える必要がある.津波災害に関しては,高齢者と漁業従事者が多く居住する地域で特に被害は大きかったのかという問いについて,地域間比較の分析を通じて検証を試みる.その上で,モデルから外れた事例として岩手県陸前高田市に注目し,津波や仮設住宅の生活におけるリスクをどう回避してきたのか,その条件は何かということについて調査データをもとに分析する.次に,原発事故災害について検討する.その出発点は,被曝と避難に伴うリスクが高齢者と若者で異なるという事実である.だが,被曝リスクをゼロにすることにこだわる場合,そのリスク構造の差異を適切に扱えない上に,有効な政策的・実践的方向性も示せなくなる.以上を通じて,地域や時期,問題によって,特定の社会的カテゴリーが有する災害に対するリスクが多様な形をとることとその含意について論じる.
著者
宮城 孝 森脇 環帆 仁平 典宏 山本 俊哉 藤賀 雅人 神谷 秀美 金 呉燮 松元 一明 崎坂 香屋子
出版者
法政大学現代福祉学部現代福祉研究編集委員会
雑誌
現代福祉研究 (ISSN:13463349)
巻号頁・発行日
no.16, pp.135-176, 2016-03

陸前高田地域再生支援研究プロジェクトは、東日本大震災において岩手県で最も甚大な被害にあった陸前高田市において、被災住民自身が地域の再生、生活再建に向けてその課題を話し合い、主体的な取り組みを行うことを支援してきている。そして、仮設住宅および被災地域におけるコミュニティの形成のあり方を共に模索しながら、今後の復興における地域再生のモデルづくりに寄与することを目的として、今日まで活動を続けている。本プロジェクトは、上記に関する活動の一環として、2015年8月に、2011年から引き続き5回目となる市内・外合わせて48の仮設住宅団地の自治会長等へのインタビュー調査を行っている。本稿は、仮設住宅自治会長等に対するインタビュー調査結果等についての概要を記したものである。内容としては、居住5年目を迎えた仮設住宅団地における①転出・転入、空き住戸等の居住状況、②高齢者や子どもなど配慮が必要な人の状況、③住環境、生活環境の問題と対応、④自治会活動とコミュニティ形成の状況、⑤外部支援団体の関与の状況、⑥住宅再建・復興まちづくりに関する情報や意見等についてであり、それらの全体的な概要と各9地域の特徴について整理している。調査時点において震災発生から約4年半が経とうとしており、仮設住宅での暮らしが長期化する中、2014年末から一部災害公営住宅への入居が始まり、また、高台への移転が開始されてきており、住宅再建が目に見えてきた地域と、大規模な土地のかさ上げによる区画整理事業の完成時期が明確でなく、なかなか将来の展望が目に見えない世帯が少なからずあり、昨年度に比べて世帯・地域間格差の広がりが見られ、今後の支援のあり方が問われる。本稿で記した概要に加えて、各仮設住宅団地のデータの詳細を報告書としてまとめ、仮設住宅団地自治会長、行政、市議会、支援団体等広く関係者に送付し、今後の復興施策へのフィードバックを図っている。
著者
廣田 照幸 宮寺 晃夫 小玉 重夫 稲葉 振一郎 山口 毅 森 直人 仁平 典宏 佐久間 亜紀 平井 悠介 下司 晶 藤田 武志
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

教育システム設計の理論的基盤を確立するために、現代の教育理論、社会理論や政治哲学がどのように役立つのかを検討した。教育が果たす社会的機能を考えると、社会の多様な領域の制度との関わりを抜きにして教育システムを構想するのは問題をはらむということが明確になった。本研究では、社会のさまざまな領域の制度、特に福祉や労働の制度を支える諸原理と教育システムを構成する諸原理とを一貫した論理、または相補的な論理でつなぐ考察を行った。