著者
古川 公宣 下野 俊哉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1064-Ab1064, 2012
被引用文献数
16

【はじめに、目的】 表面筋電図は,非侵襲下での簡便な筋機能評価方法として用いられている.我々は第46回日本理学療法学術大会にて振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用いた表面筋電図波形分析方法を検討し,等尺性収縮時の筋出力の違いによる振幅データ分布帯の違いを報告したが,求心性収縮中の相違は確認することができなかった.そこで本研究においては,等速性運動中の筋機能の相違をAPDFを用いて解析する事を目的として実験を行った.解析にあたり,データ抽出範囲及び設定階級幅を詳細に検討して解析を行い,その他の指標との関連性を検討した結果,興味深い結果が得られたので報告する.【方法】 下肢の運動機能に障害を残遺する疾患や外傷の既往のない健常成人11名(男性8名,女性3名;平均年齢:19.0±2.8歳,平均身長:168.5±8.9cm,平均体重:60.6±9.8kg)を対象とした.測定機器はNoraxon社製表面筋電計TeleMyo 2400Tと等速性筋力測定器BIODEX System3をシグナルアイソレーションユニットにて同期させたものを使用した.測定対象課題は運動速度60,180,300deg/secの求心性膝関節屈曲伸展運動を5回反復することとし,標準化データとして膝関節屈曲70°での最大努力下の等尺性伸展運動を5秒間行い,課題遂行中の外側広筋,内側広筋斜頭及び大腿直筋の活動電位,膝関節伸展トルク,関節運動速度を測定した.5回の求心性伸展運動のうち中間3回の運動を対象に,目標運動速度が維持されている間の筋活動電位データを抽出した.最大等尺性伸展運動中に測定された2.5%毎の40階級を設定し,各階級に該当するデータ数の全データ数に対する割合を算出,ヒストグラムを作成して運動速度の違いによる相違を検討した.また,解析対象とした運動区間の平均振幅値及び平均発揮トルクも算出し,最大等尺性伸展運動中のピーク値で標準化したもの(%peak amplitude及び%peak torque)も検討対象として使用した.統計学的検定には分散分析を用い,有意水準を5%以下として比較検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 一連の研究手順は研究者の所属する施設の研究倫理委員会にて承認を受けた後に開始された.また,研究の主旨と内容及び危険性の説明を事前に受け,同意書に署名をした被験者のみが実験に参加した.【結果】 内外側広筋の%peak amplitudeは運動速度の違いによる差を生じなかったが,大腿直筋は300deg/sec時が60,180deg/secと比較して有意に低かった(すべてp<0.01).%peak torqueは運動速度が速いほど有意に低下した(すべてp<0.01).APDF解析の結果では,内外側広筋の各階級において,運動速度の違いによる有意差はなかった.しかし,大腿直筋では0-5.0%の階級では運動速度が速い方が高値を示したが,15.0%以上の階級になると300deg/secが他の運動速度と比較して低値を示しはじめ,27.5-52.5%の階級では32.5-35.0%の階級を除いて有意に低値を示した.さらにこれ以降から80.0%までの階級においても60と300deg/secで後者が有意に低値を示していた.【考察】 %peak amplitude及びtorqueの結果より,運動速度の違いによる発揮トルクの変化は主に大腿直筋に依存していると考えられた.大腿直筋の%peak amplitudeを算出するデータの分布を見ると,運動速度の違いによって振幅データの分布帯が異なっており,運動速度が速く発揮トルクが低い方が,低い階級の出現率が高かった.関節運動速度ダイナモメータの抵抗によってコントロールされる等速性筋力測定器では,設定運動速度に到達するための筋活動が筋線維の同期ではなく交代によって制御されると考えられる.すなわち筋内の各部位で発生する活動電位を時空間的に加算して捉える表面筋電図では,設定速度に到達しそれを維持する際には,速い運動速度の方が筋活動電位の加重が少ないために,低い階級の分布が増加したことが一要因であると推察され,その分布域の変換点が25.0-37.5%階級付近に存在している可能性も確認された.今後はさらに条件を詳細に制御し,生理学的考察を加えることで,より明確な筋機能分析が可能であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 筋機能を詳細に評価することは,理学療法プログラム作成には不可欠である.本研究で用いた方法は,非侵襲下での筋機能解析が可能であり,今後,疾患,障害特性をふまえたデータ解析と併せることで,より有効なツールとなると考えられる.

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「筋内の各部位で発生する活動電位を時空間的に加算して捉える表面筋電図では」

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