著者
古川 公宣
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.84-90, 2012-09-10 (Released:2012-09-10)
参考文献数
14
著者
古川 公宣 下野 俊哉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1064-Ab1064, 2012
被引用文献数
16

【はじめに、目的】 表面筋電図は,非侵襲下での簡便な筋機能評価方法として用いられている.我々は第46回日本理学療法学術大会にて振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用いた表面筋電図波形分析方法を検討し,等尺性収縮時の筋出力の違いによる振幅データ分布帯の違いを報告したが,求心性収縮中の相違は確認することができなかった.そこで本研究においては,等速性運動中の筋機能の相違をAPDFを用いて解析する事を目的として実験を行った.解析にあたり,データ抽出範囲及び設定階級幅を詳細に検討して解析を行い,その他の指標との関連性を検討した結果,興味深い結果が得られたので報告する.【方法】 下肢の運動機能に障害を残遺する疾患や外傷の既往のない健常成人11名(男性8名,女性3名;平均年齢:19.0±2.8歳,平均身長:168.5±8.9cm,平均体重:60.6±9.8kg)を対象とした.測定機器はNoraxon社製表面筋電計TeleMyo 2400Tと等速性筋力測定器BIODEX System3をシグナルアイソレーションユニットにて同期させたものを使用した.測定対象課題は運動速度60,180,300deg/secの求心性膝関節屈曲伸展運動を5回反復することとし,標準化データとして膝関節屈曲70°での最大努力下の等尺性伸展運動を5秒間行い,課題遂行中の外側広筋,内側広筋斜頭及び大腿直筋の活動電位,膝関節伸展トルク,関節運動速度を測定した.5回の求心性伸展運動のうち中間3回の運動を対象に,目標運動速度が維持されている間の筋活動電位データを抽出した.最大等尺性伸展運動中に測定された2.5%毎の40階級を設定し,各階級に該当するデータ数の全データ数に対する割合を算出,ヒストグラムを作成して運動速度の違いによる相違を検討した.また,解析対象とした運動区間の平均振幅値及び平均発揮トルクも算出し,最大等尺性伸展運動中のピーク値で標準化したもの(%peak amplitude及び%peak torque)も検討対象として使用した.統計学的検定には分散分析を用い,有意水準を5%以下として比較検討を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 一連の研究手順は研究者の所属する施設の研究倫理委員会にて承認を受けた後に開始された.また,研究の主旨と内容及び危険性の説明を事前に受け,同意書に署名をした被験者のみが実験に参加した.【結果】 内外側広筋の%peak amplitudeは運動速度の違いによる差を生じなかったが,大腿直筋は300deg/sec時が60,180deg/secと比較して有意に低かった(すべてp<0.01).%peak torqueは運動速度が速いほど有意に低下した(すべてp<0.01).APDF解析の結果では,内外側広筋の各階級において,運動速度の違いによる有意差はなかった.しかし,大腿直筋では0-5.0%の階級では運動速度が速い方が高値を示したが,15.0%以上の階級になると300deg/secが他の運動速度と比較して低値を示しはじめ,27.5-52.5%の階級では32.5-35.0%の階級を除いて有意に低値を示した.さらにこれ以降から80.0%までの階級においても60と300deg/secで後者が有意に低値を示していた.【考察】 %peak amplitude及びtorqueの結果より,運動速度の違いによる発揮トルクの変化は主に大腿直筋に依存していると考えられた.大腿直筋の%peak amplitudeを算出するデータの分布を見ると,運動速度の違いによって振幅データの分布帯が異なっており,運動速度が速く発揮トルクが低い方が,低い階級の出現率が高かった.関節運動速度ダイナモメータの抵抗によってコントロールされる等速性筋力測定器では,設定運動速度に到達するための筋活動が筋線維の同期ではなく交代によって制御されると考えられる.すなわち筋内の各部位で発生する活動電位を時空間的に加算して捉える表面筋電図では,設定速度に到達しそれを維持する際には,速い運動速度の方が筋活動電位の加重が少ないために,低い階級の分布が増加したことが一要因であると推察され,その分布域の変換点が25.0-37.5%階級付近に存在している可能性も確認された.今後はさらに条件を詳細に制御し,生理学的考察を加えることで,より明確な筋機能分析が可能であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 筋機能を詳細に評価することは,理学療法プログラム作成には不可欠である.本研究で用いた方法は,非侵襲下での筋機能解析が可能であり,今後,疾患,障害特性をふまえたデータ解析と併せることで,より有効なツールとなると考えられる.
著者
古川 公宣 下野 俊哉
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.753-757, 2019 (Released:2019-12-21)
参考文献数
24

〔目的〕内側広筋斜頭と外側広筋の筋活動比(VMO/VL比)が測定条件や算出時の標準化の有無によりどのように変動するかを調査し,過去の知見と照合すること.〔対象と方法〕健常成人11名を対象とした.異なる3つの角速度の膝関節等速性伸展運動中の内側広筋斜頭と外側広筋の筋活動電位からVMO/VL比を算出した.VMO/VL比は,膝関節最大等尺性伸展運動中の筋活動電位での標準化の有無の2種類を求め,比較検討した.〔結果〕標準化の有無ではVMO/VL比は標準化ありの値が小さく,被験者間変動も小さかった.〔結語〕VMO/VL比は,値の大きさよりは介入前後の変化を重要視することが望ましいと考えられ,被験者間比較を行う際には標準化を行うことが必須であることも示唆された.
著者
齊藤大介 野田敏生 古川公宣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】厚生労働省の報告では,腰痛は,84%の人が一生のうちに一度は経験するといわれている国民的愁訴であり,慢性疼痛患者の半数以上に腰痛の訴えがあるとしている。腰痛は職業性疾病の6割を占め,長時間のデスクワークや長距離運転等で増悪するといわれており,腰痛予防対策が,労働者の健康確保にとっても大きな課題となっている。そのため,慢性腰痛症に対する対策の必要性があり,予防的に介入することで経済損失を効果的に減じることができるという報告もある。諸家の報告において,デスクワーク従事者は,椎間板ヘルニアの発生率が高く,坐位姿勢は立位姿勢と比較して,椎間板内圧が上昇する事や後部椎間板線維輪が伸張されるといわれている。また,腰部障害に影響を及ぼす因子として坐位時間が挙げられており,慢性腰痛症の誘因の1つである。O’Sullivanらによって報告された腰椎の生理的前弯を保つ坐位姿勢(Upright sitting)は,深層筋を優位に働かせて脊柱の靭帯軟部組織への負担を軽減するとされている。一方,胸腰部を脱力して骨盤を後傾した坐位姿勢(Slump sitting)は,脊柱起立筋にFlexion Relaxation Phenomenon(FRP)が出現し,腰椎を生理的前弯に保つ力源を非収縮性の受動性組織に依存するとされている。この姿勢を長時間保持することは,脊柱の靭帯軟部組織が伸張され,菲薄化することで強度低下を起こし(クリープ現象),脊柱の安定性が損なわれるといわれているが,腰部筋活動に関して経時的な変化を調査したものはない。そこで今回我々は,Upright sittingとSlump sittingの坐位姿勢を保持する間の腰部筋活動の経時的な変化から,異なる坐位姿勢が腰部筋活動に与える影響を調査した。【方法】健常成人男性14名,年齢:30.7±6.8歳(平均±標準偏差),身長:171.1±5.1cm,体重:65.0±9.3kg,を対象とし,1年以内に強い腰部痛の経験がなく,腰部に障害を残遺する疾患及び外傷の既往がない者とした。被験者は大腿骨を坐面と平行にし,膝関節屈曲90°,足底は床から離すようベッドに着坐し,体重の20%の重錘を両側肩関節上からベルトを用いて垂直方向に懸垂した状態でUpright sittingとSlump sittingをそれぞれ20分間保持した。被検筋は,左右の腰部腸肋筋と腰部多裂筋とし坐位保持中の筋活動を表面筋電計にて測定した。また,試行間には十分な期間(7日間以上)を設けた。統計学的解析は,経時的変化に反復測定分散分析と多重比較検定(Dunnet法)を用い,危険率5%未満を有意とした。【結果】Slump sittingの左右の腰部腸肋筋,腰部多裂筋の筋活動電位は,時間経過に伴う変化は示さなかった。また,Upright sittingにおいても腰部腸肋筋の筋活動に有意な変化は見られなかったが,両側の腰部多裂筋の筋活動は経時的に有意に増加し,右側(12分後)の増加が左側(16分後)よりも早期に出現した。【考察】Upright sittingでは,腰部多裂筋の筋活動が経時的に有意な増加を示したが,腰部腸肋筋の変化は認められなかった。このことから,脊柱の靭帯軟部組織への負担が少ないとされるUpright sittingを保つ時でも,保持時間が長くなると下部腰椎に後弯方向のストレスが生じ,筋疲労を誘発している事が推察された。左右の出現時期の違いは坐圧の不均衡によるものと考えられるが,今後の検討課題である。また,Slump sitting開始時の腰部筋活動電位は,平均約8.4μVと低値を示した。これは,FRPが出現したと考えられ,この姿勢を保持するときには筋による力源ではなく,腰部受動性組織の張力へ依存していることが推察された。本研究の限界として,長時間の坐位保持を重量負荷にて再現したため,本来の長時間坐位保持による変化と異なる可能性がある。今後は日常的な作業環境での評価を行えるよう研究を進める計画である。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臨床の現場や腰痛予防教室において,デスクワークまたは長距離運転等に従事する者の慢性腰痛症を予防するための作業環境設定,適切な作業姿勢の指導を行なう一助となると考える。